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外圧→自己遺伝子組み換えの仕組み

原猿が真猿に進化する過程でレトロポジション爆発が起こっていることや、レトロポジションが起こる原因にストレス(外圧)が係っていることを見てきました。これらの現象は、生物が外圧に適応するために自ら遺伝子を変化させるシステムを持っていることを示唆しています。
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この画像はRIKEN [1]脳の進化 [2]からお借りしました。
これまでの進化論では遺伝子の変化は、突然変異と自然選択によるものと考えられてきました。生物が自ら遺伝子を変化させることが出来るとした、そのシステムはどうのようになっているのでしょうか。
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●大進化と小進化の違い

外圧を受けて生物が機能を進化させる方法には、遺伝子配列そのものを変化させる方法と、遺伝子の発現制御を変化させる方法の二つが考えられます。そして遺伝子配列を変えないで遺伝子の発現制御を変える仕組みのことをエピジェネティックと呼んでいます。
進化の中で、大進化といわれる進化は遺伝子配列までを変化させる進化であり、小進化といわれる進化はエピジェネティックによる進化である可能性が高いと思われます。
例えば、先祖がえりという進化(変化?)は、昔は使っていたけれど今は発現を抑制して使っていない遺伝子の発現抑制がはずれ、使っていなかった機能が発現することと考えられます。事実、人間の細胞には魚のエラを作るのと同じ遺伝子が保存されていて、受胎32日目の胎児では、顔の側面に魚類の鰓裂に相当する数対の裂け目が現れます。そして通常は、35日目の胎児では、鰓の血管が肺の血管へと変貌を遂げますが、まれに奇形で鰓が残っている人がいます。( 参考:個体発生は系統発生を繰り返すのか [6]東西南北 [7])

●小進化は遺伝子と無関係か

一般的にはエピジェネティックは遺伝子配列を変えないで、制御だけを変える仕組みと言われています。しかし、遺伝子発現を制御する方法の情報は、どこに記憶されて、どのように伝達されているのでしょうか。
最新の情報では、遺伝子の発現を制御しているのは小さなRNAであると考えられています。そして小さなRNAの情報は、遺伝子の中のノンコーディング領域に蓄積されていることが分かってきています。
(参考:変異転写の仕組み?(中間整理) [8])
遺伝子発現の制御情報がノンコーディング領域に記憶されているとすれば、エピジェネティックな進化も、遺伝子の組み換えを必要とすることになります。そうであれば、大進化も小進化も遺伝子の組み換えを伴うことになります。

●自発的な遺伝子組み換えを担うのはトランスポゾン遺伝子

そこで、大進化と小進化で何が違うかと言えば、組み換えが起こる遺伝子の領域が違うと考えられます。大進化の場合はタンパク質をコードしているコーディング領域の遺伝子が組み替えられるのに対して、小進化の場合は遺伝子発現を制御しているノンコーディング領域の遺伝子が組み変えられると考えられます。
外圧を受けて、遺伝子自らが自分の遺伝子を組み替えているとしたら、その役割はトランスポゾン遺伝子が担っていると考えられます。外圧を受けて自己の遺伝子を組み換える仕組みは、外圧を受けてトランスポゾン遺伝子を発現させる仕組みであるとも言えます。
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この画像は「転移因子が手繰るゲノム言語の形成と進化 [9]」からお借りしました。

●トランスポゾンを発現させる仕組みがシャペロン

外圧を受けて遺伝子を発現させる仕組みとしては、シャペロンの仕組みが参考になります。(参考:Y染色体とトランスポゾン [10])有名なのが細胞に高熱というストレスがかかった時に働くシャペロンで、高熱により細胞内のタンパク質が変性すると、変性を補修するシャペロンが大量に生産される仕組みです。
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この画像はIntroduction of Yohda,Odaka & Yamada Lab. [11]よりお借りしました。
熱ストレスに対抗するシャペロンが大量に生産される為には、シャペロンを生産する遺伝子が発動する必要があります。遺伝子が発現するためには、RNAポリメラーゼがDNAの必要な情報が書かれた箇所にくっついてRNAを複製する必要があり、そのスタートラインを示すのがHMGボックスタンパク質(転写活性化因子)です。
このHMGボックスタンパク質(転写活性化因子)は、普段は不活性な状態にあり、遺伝子は発現しません。普段は熱ストレスに対抗するシャペロンがHMGボックスタンパク質(転写活性化因子)に結合しており、不活性な状態になっています。
ところが、細胞に高熱のストレスがかかると、熱ストレスに対抗するシャペロンは壊れたタンパク質を修復するためにどんどん使われれて、細胞内の濃度が薄くなります。すると、HMGボックスタンパク質(転写活性化因子)にくっついている熱ストレスに対抗するシャペロンがはずれて、壊れたタンパク質の補修に向かいます。
そして、シャペロンがはずれたHMGボックスタンパク質(転写活性化因子)は、シャペロン増産遺伝子の読み取り開始箇所にくっついて、シャペロンの増産が始まります。
同様な仕組みで、外圧がトランスポゾン遺伝子の働きを活性化させる方法が考えられます。
何らかの外圧が働き細胞が損傷を受けると、それを補修するシャペロンが消費されます。その結果、トランスポゾン遺伝子を活性化させるHMGボックスタンパク質(転写活性化因子)を抑制していたシャペロンがはずれます。そして、トランスポゾン遺伝子にHMGボックスタンパク質(転写活性化因子)がくっついて、トランスポゾン遺伝子が活性化するという方法です。

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