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遺伝子を制御するncRNAの協働作業

こんにちは。
今日は、ノンコーディングRNA(タンパク質に翻訳されないRNA)の役割に関する、注目の科学ニュースを紹介します

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『ガラクタ』RNAの遺伝子活性化における新しい役割 [4] 

●発見の背景
  ヒトゲノム解析結果から、下等な生物と比較して、ヒトの遺伝子数がそれほど多くないことが示された。これは、生物の複雑化や多様化において、遺伝子数の増大よりも、遺伝子発現制御の複雑化が重要であることを示している。また、昨今の網羅的な遺伝子発現の解析から、タンパク質をコードしていない転写物(非翻訳型RNAまたはノンコーディングRNA)が、予想以上に多く存在することが示された。非翻訳型RNAは、当初何をしているか不明であったため「ガラクタ」のような存在ではないかと考えられていた。しかし、最近になって、発生・分化に応じて転写制御を受けるほか、遺伝子発現の抑制などの機能が示されつつあり、さまざまな遺伝子制御過程に重要な役割を持つと考えられるようになった。このような無数の非翻訳型RNAの発見は、生命科学に大きな転換点をもたらしつつあり、「RNA新大陸発見」と称されるに至っている。しかしながら、非翻訳型RNAの遺伝子発現制御における役割は不明な点が多く、特にmRNA型の非翻訳型RNAの機能については、ほとんど明らかになっていない。

  太田邦史(東京大学大学院総合文化研究科教授/理化学研究所客員主幹研究員)の研究室では、酵母を用いてDNA組換えとクロマチン構造※1の関係を調べてきた。その過程で、DNA組換えが頻発する場所で、減数分裂時にクロマチン再編成が起こることを示した。また、このクロマチン再編成には、ある種の配列特異的DNA結合タンパク質(CREB/ATF型転写因子※2)が関わることを見出した。さらに、太田邦史教授と廣田耕志氏(元 理化学研究所 基礎科学特別研究員)は、同様なクロマチン再編成の仕組みが、グルコースが枯渇した環境下(グルコース飢餓)にある分裂酵母のfbp1遺伝子(フルクトース-1,6-ビス脱リン酸酵素※3)の転写プロモーター領域にも認められ、fbp1遺伝子の活性化に関わることを明らかにしていた。

●発見の詳細
  fbp1遺伝子は、グルコースが培地に存在する間はほとんど転写されない。ところが、グルコースが培地から失われると(グルコース飢餓)、1時間ほどで顕著に活性化される。今回廣田耕志氏と太田邦史教授らは、グルコース飢餓状態に移行する際、微量の非翻訳型RNAがあらかじめ転写されていることを発見した(図1)。この非翻訳型RNAは、正規のfbp1遺伝子プロモーターのさらに上流域から転写される長鎖のmRNA型非翻訳型RNAであり、タンパク質には全く翻訳されない。興味深いことに、グルコース飢餓に対応してfbp1遺伝子の活性化がはじまると、転写開始部位がfbp1コード領域に近接したいくつかの転写開始点に順次移行し、RNA量の増大に相反して、長さがだんだんと短くなっていった。これに呼応するように、fbp1プロモーター領域のクロマチン構造が徐々に開いた状態に移行していくことも示された(図2)。グルコース飢餓から1時間ほどすると、正規のfbp1転写開始点から大量のmRNAが合成され、タンパク質への翻訳が始まった。この時期におけるfbp1領域のクロマチン構造は、広い範囲でヌクレアーゼの消化を受けやすい開いた状態をとっていた。

  上記の結果は、長鎖非翻訳型RNAがRNAポリメラーゼⅡ※4によって合成される過程で、順次fbp1プロモーター領域のクロマチン構造が弛緩していき、これがカスケード的に生じることで、転写が段階的に活性化される可能性を示唆している。
(以降引用省略)

クロマチン構造というのは、DNAがヒストンなどのタンパク質と結合して凝縮されている状態のことです。DNAから情報を読み取る際には、これを変化させてほどいていく必要があります。クロマチン構造は、転写や組換え・複製などの遺伝情報制御において、重要な役割を果たしています。
参考:クロマチン構造と転写調節 [5]  

※ちょっと解説しますと・・・
グルコース(ブドウ糖)は生物のエネルギー源です。これが枯渇してくると、ほかの栄養素から糖をつくりだして供給する仕組みが生物には備えられています(人の場合も一日以上絶食するとこの「糖新生」が肝臓で行われます)。
その反応に不可欠な酵素をつくりだすのが「fbp1遺伝子」で、通常環境下では転写は抑えられていますが、飢餓状態になると活性化して酵素を合成します。
こうした作用の上流部分で、ノンコーディングRNAがクロマチン構造を段階的に変化させ、遺伝子発現をコントロールしているというわけです。

つまり、外圧の変化⇒転写因子⇒ノンコーディングRNA⇒クロマチン構造変化⇒DNA⇒mRNA⇒タンパク質という流れ、しかも、この前段部分がカスケード的に(連鎖的に)反応することでやっと目的のタンパク質がつくられるに至るのです。
(セントラルドグマは生命活動のごく一部の現象しか説明していないことがわかりますね)

外圧に適応するため、生命活動を維持するためには、ノンコーディングRNAや転写因子の協働的な仕組みが、非常に重要なはたらきをしているのです

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