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セルトリ細胞のY染色体が精子の遺伝子を制御している

生物史ブログの「精子の乳母!?『セルトリ細胞』の役割って??」 [1]に寄せられていた、以下のコメントについて調べてみました。

>こんな記事みつけました。

性分化機構の解明 [2]
哺乳類の精子発生における体細胞側でのY染色体の役割について、以下の2点を明らかにした。
1)精巣決定遺伝子Sryによる精巣への分化決定以後、思春期での半数体形成(円形精子細胞)までは、体細胞側 (精巣、下垂体、視床下部を含め体中の全ての体細胞)でY染色体は不要である。
2)円形精子細胞から精子までの精子形成に、Y染色体上のDdx3y, Uty, Ubely1, Eif2s3y, Jarid1d(全てあるいはこの一部)がセルトリ細胞で重要であり、幾つかの精子形成関連遺伝子のセルトリ細胞での発現を制御することにより精子への形態形成を支持していることが推測された。
・・・
上記だけでは判然としませんが、
セルトリ細胞におけるY染色体って、何か重要な働きをしているのかもしれませんね。

復習になりますが、セルトリ細胞は、精子の元になる精原細胞が精子に成長していくのを助けている細胞です。
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この画像は京都大学のニュースリリース [3]からお借りしました
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Y染色体が最初に働くのは発生初期です。卵巣にも精巣にもなりえる生殖腺が精巣になるのは、Y染色体上のSry遺伝子が発現し様々な精巣形成遺伝子が働き出すからです。
そして、次にY染色体が働くのは、第二次性徴を経て、本格的に精子を生産するようになってからのようです。
精巣内で精子が生産される流れは、精組細胞→前(第一次)精母細胞→(第二次)精母細胞→(前期・後期)精子細胞→精子となっています。
これらの精子生産の過程は、セルトリ細胞が分泌する物質(リガンドSCF)が精祖細胞の受容体(チロシンキナーゼc-Kit)に受け入れられることで進んでいるそうです。
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この画像はGISTの発生機構 [7]からお借りしました
※1、リガンド
主に細胞膜表面上に存在する受容体に結合し細胞内にシグナルを伝える細胞外の物質で,各種ホルモン,増殖因子を含む。KITに対するリガンドはSCFである。チロシンキナーゼ(tyrosine kinase)
※2、SCF
骨髄間質細胞などで産生され,造血などに重要な役割を果たすサイトカイン。受容体型チロシンキナーゼであるKITのリガンド。SCFがKITに結合することにより,細胞増殖などのシグナルが細胞内に伝達される。たとえば,急性骨髄性白血病の芽球は高頻度にKITを発現しているため,SCF存在下でその増殖が促進される。
※3、チロシンキナーゼ(tyrosine kinase)
プロテインキナーゼ(蛋白質リン酸化酵素)の1つで,チロシン残基を特異的にリン酸化する酵素の総称。細胞膜を貫通するドメインを有する受容体型チロシンキナーゼと細胞膜を貫通しない非受容体型チロシンキナーゼに分けられ,リガンドと結合することにより細胞内に細胞増殖・分化などのシグナルを伝達する。
精子は自発的に精祖細胞から減数分裂や形態変化を起こし精子になっていくわけではなく、セルトリ細胞から分泌される物質の指令を受けて、初めて精子へと変化しているのです。
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この画像は精子形成(発生)に関する研究 [8]からお借りしました
つまり、精子の遺伝子はセルトリ細胞からの指令で動いています。そして、精子の遺伝子の働きを制御しているのが、セルトリ細胞のY染色体であり、Y染色体上のDdx3y,Uty,Ubely1,Eif2s3y,Jarid1dといった遺伝子です。
生物史ブログの「精子の乳母!?『セルトリ細胞』の役割って??」では、セルトリ細胞が生殖細胞の遺伝子組み換えに何らかの役割を果たしている可能性が高いことが示唆されていましたが、その可能性は高そうです。
生殖細胞は、減数分裂を行った後は体細胞と異なった細胞となるため、免疫的には自分以外の細胞=抗原とみなされ攻撃されます。したがって、体細胞と生殖細胞は免疫的には隔離されており、接点になっているのがセルトリ細胞です。
生物が何らかの外圧を体細胞で受けて、その情報を生殖細胞に伝え、自発的に遺伝子組み換えなどを行っているとしたら、体細胞と生殖細胞の接点にあるセルトリ細胞がその役割を果たしている事になります。
外圧が生殖細胞まで伝わるとしたら、その流れは以下のようになります。
外圧→体細胞→情報伝達物質→セルトリ細胞のY染色体→情報伝達物質→精子の遺伝子→遺伝情報の組み換え。

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