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細胞分裂M期における微小管の働き

今日は、真核生物の細胞分裂期における微小管の働きについて記事を書きたいと思います。
 
その中でも特に染色体の分裂過程の部分。
2組に複製した染色体が細胞中央部分に集められ、その後両端に染色体が分かれていくシーンは学校の授業 でも習ったと思いますが、どうやって染色体を中央に集めているんだろう?どうやって2つに分けているんだろう? 🙄 と皆さんは不思議に思ったことありません?
 
微小管の働きにそのヒントがありそうです


真核生物の細胞周期は、このブログでも幾つか投稿がありますのでそちらをご覧ください。
参考記事
・細胞周期制御機構のポイント [1]
この細胞周期のM期にあたる部分で、染色体の分裂が行なわれ、またM期に入る前には、既に染色体と中心体の倍加は行なわれています。
さらに、このM期を詳細に見てみると6段階に分かれています。
                        
◆◆ 動物細胞のM期のおもな段階 ◆◆
1 前期
 前期には、各染色体は既に複製されて、2つの姉妹染色分体として固く結合し、凝縮していきます。核の外側では2個の中心体の間に有糸分裂紡錘体が形成され、中心体は離れた位置へ移動を始めています。この有糸分裂紡錘体とは、微小管とそれに結合する様々なたんぱく質からなります。(モータータンパクもその一つです)
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2 前中期
 前中期は、突然の核膜の分散で始まります。染色体は動原体を介して紡錘体微小管に付着し、活発に動き始めます。
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3 中期
 中期には、染色体は両紡錘体極の中間にある紡錘体赤道面に並んでいきます。対をなす染色体の動原体微小管は、それぞれ反対側にある紡錘体極に付着します。
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4 後期
 後期には、対になった染色分体が同時に分離して2個の娘染色体になり、これから付着する紡錘体極にゆっくり引っ張られていきます。動原体微小管は短くなり、紡錘体極も離れていく為に、染色体も分離していきます。
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5 終期
 終期には、2組の娘染色体がそれぞれ紡錘対極に到達します。それぞれの周囲に新たな核膜が形成され、2個の核の完成が完了して有糸分裂が終了します。そして、細胞質の分離は収縮環の形成から始まります。
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6 細胞質分裂
 動物細胞の細胞質分裂では、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントからなる収縮環により細胞質が2つに分割されます。収縮環は細胞質を締めつけて、それぞれ核を1個ずつもつ2個の娘細胞ができます。
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◆◆ M期での微小管の働き ◆◆
次に、このM期での微小管の働きを見てみたいと思います。
微小管は、チューブリン二量体が結合してできた管状のものです。両端にプラス端とマイナス端の電位差があり、マイナス端を中心体に結合し、プラス端を自由端として伸びたり縮んだり、端部をたんぱく質と結合させ安定したりします。S期では細胞骨格として働いています。
参照:るいネット [2]
この動的不安定という特徴をもった微小管は、M期に入ると急速に不安定さが増し、S期では細胞質で列を作っていた微小管は分解し、再集合して有糸分裂紡錘体に変化していきます。
1 前期
 前期になると、両極に分かれた中心体から伸びた微小管のいくつかが、反対側の中心体から伸びてきた微小管と接触するようになり、その相互作用によって微小管は安定化し脱重合が妨げられます。両極から伸びてくる微小管の先端はプラス端とプラス端なのに何故くっつくのかは、下記の図が参考になると思います。微小管にくっつくモータータンパク質や微小管結合タンパクを媒介にして結合していきます。
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こうして2組の微小管群がいっしょになり、両端に中心体をもち、中央に微小管が結合した赤道面をもつ、特徴的な二極構造の骨組みがつくられます。
ただ、少し気になるのは、中心体のない動物細胞では、染色体が核となって微小管を集合させ、モータータンパクが微小管と染色体から二極性紡錘体をつくるという点。植物細胞にも中心体はないが、十分に機能する紡錘体が形成されることからも、現在の知見としてはモータータンパクと染色体自身に紡錘体形成にとって重要ということになっています。
2 前中期
 前中期になると紡錘体微小管は、染色体上に形成された動原体というタンパク質複合体に結合していきます。複製がすんで2本になった染色体には、動原体が各姉妹染色分体に1個ずつ背中合わせに形成されており、両極から伸びてきた微小管に各々が結合しやすいようになっています。
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こうして動原体に結合した微小管は動原体微小管と呼ばれています。各動原体に付着する微小管の数は生物によって異なっており、人の動原体には20~40の微小管が結合します。
3 中期
 前中期には、紡錘体に付着した染色体はあちらこちら引っ張られるように動き回っていますが、中期になると次第に赤道面に染色体が並んでいきます。
 何故、染色体が赤道付近に集まってくるのかは、まだ未解明のようですが、微小管の頻繁な伸長、短縮とモータータンパクの活動が関与していると考えられています。イメージとしては、染色体は微小管によって綱引き状態にあり、その動力源であるモータータンパクや、チューブリン濃度の均衡によって、綱引き状態がバランスされていくのではないかと、勝手に想像しています。
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4 後期
 後期は、姉妹染色分体を繋いでいたコヒーシンの解離によって始まります。その結果、各染色分体はそれぞれの紡錘体極に向かってゆっくり引き寄せられていきます。
 引き寄せられる仕組みは、まず動原体微小管が脱重合によって短縮し、付着した染色体を極方向へ引き寄せていきます。またモータータンパクによる動力も働いています。
 またさらに、紡錘体極自体が極方向へ離れていき、染色体を分離していく力も働いています。この過程の動力源は互いに重なり合った微小管が伸び、モータータンパクで滑りあう事で紡錘体極を遠ざけていきます。言葉では難しいので図を参照してください。
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5 終期
 終期の終了までに娘染色体は2組の同等なグループに分かれ各々がそれぞれの極に集まり、核膜が形成されていきます。ゴルジ体や小胞体も、モータータンパクを介して紡錘体微小管に連結されているものもあり、紡錘体の伸縮によって娘細胞に分配されていきます。
6 細胞質分裂
 細胞分裂の最初の兆候として、後期になると細胞膜に寄り溝ができます。溝は必ず紡錘体の軸と直角な面にできるようになっています。(故に、染色体を正確に2分できる)紡錘体を人為的に移動させると、最初の分裂溝は消滅し、紡錘体の新しい位置に分裂溝ができます。
 ということは、紡錘体が分裂溝の位置を決めているということですが、その仕組みは未明のようです。
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以上、細胞分裂期の微小管の働きについて見てきましたが、基本的な仕組みは解ってきたが、まだまだ謎が多い!ということが解りました。
今後も細胞分裂の微小管、モータータンパク、染色体、中心体の各々の役割を追ってみたいと思います。
参考著書:Essential 細胞生物学 原書第2版(南江堂)

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