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原核細胞の分裂制御機構 ~群による外圧適応~

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画像はクオラムセンシングについて コチラ [1]からお借りしました。
 
左図:細菌密度が低い状態ではオートインデューサー()濃度も低く物質産生が起こらない
右図:密度が高くなると()濃度も上がってクオラムセンシング特有物質()が産生
 
  
原核生物の細胞分裂について投稿が続いています。今回は分裂開始の条件が何かあるのではないか?と考え探索しました。原核細胞の分裂制御機構に関する内容をいくつか見つけたので紹介したいと思います。
 
 


■生きているが培養できない細菌「VBNC [2]
 
古細菌と呼ばれる細菌で以前から指摘されていた。これらの細菌は,実験室のあらゆる培地で培養できなかったからである。しかし,顕微鏡を覗くと,そこには無数の細菌がいる。しかも,ATP生成を調べると,明らかにその細菌たちは生きているのである。このような知見から,VBNCという概念が1980年代に提唱され,現在では揺るぎない事実として認められている。
 
なぜ大部分の細菌は生きているのに培養できないのか。これには様々な要因があるらしいが,そのほとんどは環境からのストレスだ。温度の変化(低下や上昇),食料の減少,PHの変化など,あらゆる環境の変化はもろに細菌に直接的に影響する。このようなストレスを受けると細菌は矮小化する。同時に代謝活性を低下させる。ある細菌は条件がよくなればまた代謝を再開させるし,別のある細菌は不可逆的な変性のため半死半生となっている。これらをひっくるめて「生きているが培養できない状態 (VBNC)」と呼んでいるらしい。
 
例えば,コレラ菌は,人体の腸管を経由することで,培養可能な状態となり,感染力を有して復活するのだ。同様の「人体を経由するとVBNCから培養可能型に回復する」現象は,病原性大腸菌でも検証されている。
 
 
■細胞間コミュニケーション「クオラムセンシング [1]」 
 
クオラムセンシングとは、一部の真正細菌に見られる、自分と同種の菌の生息密度を感知して、それに応じて物質の産生をコントロールする機構のこと。quorumとは議会における定足数(議決に必要な定数)のことを指し、細菌の数が一定数を超えたときにはじめて特定の物質が産生されることを、案件が議決されることに喩えて名付けられた。
 
クオラムセンシングの機構によって、細菌はある程度以上の菌数(密度)に増殖するまで特定の物質産生を抑え、その後、十分な菌数が確保された時点からその物質産生を行うことで、環境中での生存や増殖が有利になるよう利用していると考えられている。一個一個の細菌は弱いため、菌数が少ない段階では敢て目立った行動を起こさずに増殖を続け、それが多数に増えて安定した増殖が見込める状態になったら、クオラムセンシングを行って、機を逃さずに一気に繁殖するという戦略をとっていると考えられている。
 
 
■密度感知タンパク質 「SdiA [3]
 
多くの細菌は自己誘導物質(オートインデューサー)とよばれる物質を生成して細胞外へ放出している。細菌が増殖するのに伴い、細菌のまわりの自己誘導物質の濃度も増加する。自己誘導物質の濃度がある閾値を超えたとき、細菌内に存在する自己誘導物質受容タンパク質が自己誘導物質と複合体を形成して活性状態となり、特定の遺伝子の転写を活性化する。
 
このシステムは、単体では立ち向かえない相手(免疫系など)に対して、十分な数の仲間が集まったときにのみ一斉に機能(毒素の放出など)を発現させるという細菌の戦略と捉えることができる。自己誘導物質とそれに関与するタンパク質は種類によって異なる。例えば、多くのグラム陰性細菌は自己誘導物質としてN-アシル-L-ホモセリンラクトン(ホモセリンラクトンに数個のアシル基がついたもの)を採用している。
 
大腸菌のSdiAもLuxRファミリーのタンパク質であり、C8-HSL(N-octanoyl-L-ホモセリンラクトン)を自己誘導物質として受容する。C8-HSLの存在しない状況では、SdiAは天然構造にフォールディングすることができない。つまり、C8-HSLはSdiAを正しい立体構造へと導くフォールディングスイッチの役割を持っている。SdiAとC8-HSLの複合体は細胞分裂装置遺伝子のflsQAXオペロンを転写活性することが分かっている。
 
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生存に適さない環境下では代謝を抑制。適した環境となったら「群」全体で活性化する適応戦略を、原核生物は獲得しているようです。またその指令には、(種により異なるようですが)、なんらかの情報伝達物質と、その受容体が関与しているようです。原核細胞の分裂制御機構にも、「群」による外圧適応をみることができます。

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