- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

小さなRNA~変異と安定の不思議な仕組み

今日は、生殖細胞と小さなRNAの関係について考えてみます。
そして・・・
生物において、外圧による変異とその転写はどうなっているのか? 
また、そのプロセスにおけるオスとメスの役割は? 
こうしたテーマに迫っていきたいと思います

こちらのエントリーもごらんくださいね。
小さなRNAの多様なはたらき  [1]
小さなRNA(続編) [2]

気になる続きはポチっと押してからどうぞ
ブログランキング・人気ブログランキングへ [3]
にほんブログ村 科学ブログへ [4]
[5]



●卵に発現する、レトロトランスポゾンによる変異を抑制するsmallRNA(siRNA)
哺乳類初、マウス卵子から内在性siRNAを発見 [6] より

本研究チームは内在siRNAが作り出されるのに必要なダイサー切断酵素を欠損させた卵子で、レトロトランスポゾンの働きが活発化していたことから、内在siRNAがレトロトランスポゾンの発現を抑制していると結論づけました。
レトロトランスポゾンとは、ゲノムに寄生して自分のコピーを増やす遺伝因子の一種です。
増えたコピーが別の遺伝子の場所に挿入されると突然変異を起こします。
内在siRNAによるレトロトランスポゾンの発現の抑制は、遺伝子の突然変異を抑え、正常なゲノムや遺伝子を次世代に伝えるのに役立っていると考えられます。
哺乳類のレトロトランスポゾンには、ゲノム中に数万コピーも存在するものがあることから、レトロトランスポゾンが動き回らないよう抑制することは哺乳類の進化の過程においてとても重要です。

※siRNAとは・・・
・small interfering RNAの略(低分子干渉RNA)。
・二本鎖RNAからDicer(ダイサー)とよばれる切断酵素によってつくられ、RNA干渉(遺伝子の発現調節)を起こす。
・哺乳類だけでなく、酵母、植物、線虫の体内に存在し、生物種を超えて保存された進化的に重要なRNAと考えられる。

※少しややこしいところですが、siRNAはどうやってつくられるかというと、偽遺伝子(DNA配列のうち変異を蓄積した部分)もしくはレトロトランスポゾンをもとにつくられています。

●精巣で発現するsmallRNA、その役割は?
精巣では、卵に発現するsiRNAや、miRNA(マイクロRNA)とは異なる、別のタイプのsmall RNAが働いています。

マウス精巣におけるレトロトランスポゾンのDNAメチル化はPiwiファミリー蛋白質によって制御される [7] より

哺乳類の精子を作る雄性生殖細胞において、small RNAの制御系とde novo DNAメチル化の制御系の間にクロストークがあることが発見されました。
Piwiタンパク質はpiRNAとよばれる25-32 ntのsmall RNAと結合し、遺伝子発現の制御に働いています。
今回、PiwiノックアウトマウスにおけるDNAメチル化解析、および胎生期精巣における網羅的small RNAの解析によって、PiwiとpiRNAが胎生期のマウス精巣においてレトロトランスポゾンのde novo DNAメチル化に関与することを明らかにしました。

つまり、精巣で発現するsmallRNAはDNAのメチル化に関与しているらしい。

また、精巣で発現するsmallRNA(piRNA、gsRNAなどと呼ばれている)は、減数分裂前期の精母細胞から減数分裂後の円形精子細胞にかけて発現しているらしく、精子形成にも関与しているらしい。

これは何を意味するのか???

※DNAメチル化とは・・・
・DNAのメチル化(CH3が付く)修飾は、C(シトシン)とG(グアニン)が連続する部位に多く見られる。
・初期胚発生、遺伝子の発現調整、染色体の安定化、DNA複製のタイミング、細胞の癌化など、様々な現象に重要な役割を果たしていると言われる。
・メチル化部分は遺伝子発現変異がよく起こる部位となる。
・進化史的には、酵母、線虫、ハエなどのゲノムはメチル化されておらず、脊椎動物以降に著しくメチル化の程度が上昇している。

※参考:ビジュアル生理学 [8] 

また、植物においても、興味深い現象が発見されています。
外圧変化(環境ストレス、温度変化etc)に晒された植物は、DNAのメチル化/脱メチル化を使って数百個の遺伝子の発現変動させ、危機を回避する機構をもっています。つまり環境変化に対応する遺伝子のスイッチオン/オフのキーとなっているのがDNAメチル化になっているようです。

★つまり、DNAメチル化とは、DNA配列によらない(≒セントラルドグマによらない)遺伝子発現変異システムであり、外圧変化に対抗するシステムのひとつです。

・・・
以上の事実に、仮説も加えてみると・・・ 😮

1.小さなRNAは、生殖細胞の変異と安定にも深く関わっている。

2.卵(メス)においては、おもに、トランスポゾン等による変異から守る=安定の役割を担っている。

3.精巣(オス)においては、(変異抑制もあるだろうがそれだけでなく)外圧に対応する変異を促す役割を担っている可能性がある。

4.そのsmallRNAは精子形成に関わっていることから、精子への変異転写に関与する可能性もあるかもしれない。

[9] [10] [11]