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原核生物の染色体分配に用いられる細胞骨格

原核生物の細胞分裂の解明に取り組んできていますが、今日はMreBについて紹介します。
原核生物の細胞骨格はチューブリンの原型と思われるFtsZ、アクチンの原型がMreBと考えられています。(FtsZは当ブログ「分裂形成を担うZリング(タンパク質集合体)」 [1]で詳しく紹介されています。)
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白いらせんがMreB
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1.MreBはらせん状に配置され大腸菌の円筒状の形を維持する細胞骨格
真核生物と同様に、細胞骨格が物質輸送のレールの役割も果たしているようです。
上の図は大腸菌の両極に感覚機能があるらしく、細胞内に分散する受容体がMreBに沿って両極に集まるようすです。

 これまでタンパク質輸送装置は、細胞膜上に一様に分布していると考えられてきた。しかし近年、大腸菌などの細菌にも、細胞分裂や形の維持などにはたらく細胞骨格系タンパク質が存在し、らせん状の線維を形成していることが明らかになっているので、タンパク質輸送装置もらせん状に配置されている可能性を考えて調べてみたところ、まさにらせんを示した。
 細胞骨格系タンパク質は、真核生物の細胞骨格を構成するアクチンと相同なタンパク質で、これがないと大腸菌は丸くなってしまう。細胞の形態維持に重要な役割を果たしているのだ。しかし、この細胞骨格系タンパク質のらせんとタンパク質輸送装置の配置を示すらせんは一致しなかったため、さらに詳しく観察したところ、タンパク質輸送装置によって膜に挿入された受容体は、すぐ拡散せずにタンパク質輸送装置と共局在している。ただし、何らかの構造に固定されているわけでなく、活発に動いているようだ。観察からは、受容体がらせんの軌道に沿って徐々に極へ移動すると考えてもよさそうだ

JT生命誌研究館「大腸菌の極で鼻のようにはたらくセンサー」 [5]より(上の画像も)引用しました。
2.原核生物の細胞分裂にも細胞骨格が働いている。
原核生物の細胞分裂時において、FtsZは細胞を二つにカットするはさみの役割ですが、MreBは倍加したDNAを両極に配置する役割をになっているようです。真核生物の紡錘糸の役割ですね。1.で取り上げたレールとしての機能を活用していると考えられています。

最近になって染色体の複製開始点は複製後に速やかに細胞の極付近に移動することが明らかになった。その移動速度は明らかに細胞の伸長速度より速いことから,細胞膜の成長による分配機構は否定された。このことは,細菌にも染色体を能動的に一定方向に移動させる仕組みが存在することを意味している。

 近年,RNA ポリメラーゼを一種のモータータンパク質として捉え,染色体分配の大きな駆動力となるのではないかという仮説が提起されていた。RNA ポリメラーゼが持つ駆動力は真核細胞の染色体分配に関与するモータータンパク質キネシンの駆動力の実に4 倍近くあり,染色体分配を担う役者として申し分無い。MreBとRNA ポリメラーゼが相互作用することを示す免疫沈降実験の結果は,まさにこれらの知見をつなぎ合わせるものであったのである。
 以上のことを総合すると,細菌の染色体は複製開始点近傍がセントロメアとして機能し,RNA ポリメラーゼの生ずる駆動力を使ってMreB らせんに沿って娘細胞に分配されるというなんとも奇妙な有糸分裂装置が浮かび上がってくる
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和地 正明, 岩井 伯隆 (2007): 抗菌薬の新規標的としての細菌のアクチン様細胞骨格タンパク質 . 日本細菌学雑誌 62, 397-404 . [6]
RNAポリメラーゼがDNAを転写するだけでなく、DNAを引っ張るモータータンパクとして機能するなんて大胆な仮説ですね。確かに分裂時には起点が細胞膜近辺にくっついて移動する画像を見たことがあります。
環状DNAの一カ所の起点に複数のRNAポリメラーゼがくっつき、両方向に向かって転写する二つ?と、複製後の二つの起点それぞれを引っ張って移動するRNAポリメラーゼがあり、後者がMreBに沿って螺旋的に両極に向かって進んでいくということでしょうか。
MreBを解明してきましたが、カギはRNAポリメラーゼにあるような…。
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