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原核生物の細胞分裂

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画像はコチラ [1]からお借りしました。
 
 
生命定義の一つに「自己複製」があります。細胞分裂は、その壮大なテーマの重要な要素。原核生物の細胞分裂は、まだ未解明な点が多いようですが、現在わかっている内容をまとめてみたいと思います。原核生物は、非常に種が多く、多岐に進化しているため、一番研究が進んでいる大腸菌ではじめます。
 
 


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図の通り、大腸菌はカプセルのような細胞形状をしており、内部に環状DNAが存在しています。細胞周期は、真核生物のようなG1期→S期→G2期→M期といった段階区分は明確に無く、各段階は同時並行的に進行します。ここでは便宜上大きく3段階に分け、まとめてみます。
 
<1> 細胞が成長
栄養素を摂取し、細胞が大きく成長していきます。所定の大きさに到達すると、それが細胞分裂の条件となり、DNA複製が開始されます。
 
 
<2>DNAの複製と分配
複製は、起点(=oriC)から始まります。この領域に、真核生物のpre-RCと似たタンパク質構造をつくります。複製タンパク質により、2方向にDNA複製を開始。大腸菌DNAは環状のため、2方向複製すると複製起点の反対側が終点(=ter)となります。ここに複製タンパク質が到達すると、DNA複製が完了します。
 
複製され、2つとなった起点oriC領域は、その過程の最中に、それぞれ細胞両極へ移動することが確認されています。その分配には、真核生物のアクチン(=繊維束)に似たタンパク質(=MreB)が関係しています。
 
またDNA複製時には、細胞隔壁様被膜も同時に形成されているようです。その被膜に局在した膜結合型DNA転位酵素(=FtsK)は、複製DNAが被膜通過する際、細胞分裂時のミスチェックを行っています。複製時にDNAが縺れたり、複製したはずの2つの環が誤って一本になってしまうことが起こるようですが、それを発見し、修復する機能を担っています。
 
 
<3>細胞の分裂
DNA複製が終了し、新DNAの一方が、膜結合型DNA転位酵素(=FtsK)被膜を通過すると、真核生物のチューブリン(=管状繊維束)と似たタンパク質(=FtsZ)が、細胞中央部で働き始めます。FtsZは収縮環を形成し、リング状に絞り込むような動きで、細胞中央部にくびれを生じさせ、細胞間隔壁をつくり分裂します。
 
 
<他>プラスミドの分配
遺伝的に重要なプラスミドも、細胞分裂の際、正確に分配する必要があります。これには、繊維状タンパク質(=SopA-YFP)が関係しているようです。SopA-YFPタンパク質は、細胞極から螺旋状に構造体を伸ばし、その繊維束をガイドとし、プラスミドは細胞両極に移動し分配されるようです。
 
 
<注>原核生物ならではの現象
原核生物の細胞分裂は、上記段階を同時並行的に行う特徴があります。真核生物の細胞周期は、1サイクル毎に完結していますが、原核生物は1サイクルの途中で、次サイクルがスタートすることがあるようです。具体的には、<3>の細胞分裂前に、次のDNA複製<2>の開始が確認されています。
 
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■真核生物と近い部分
DNA複製起点(=oriC)のような、真核生物の動原体と似た領域が存在しています。またDNA分配や細胞分裂には、アクチンやチューブリンのような、繊維束に似たタンパク質が働いていることがわかりました。原核生物の段階で、能動的な分配分裂機能がすでに存在しているようです。特にMreB、FtsK、FtsZ、各タンパク質が、能動的に働くと言うことは、なんらかの指令系統があるはずで、引き続き追及が必要です。
 
 
■真核生物と違う部分
<2>より、真核生物のG2期にあたる期間が存在しないことがわかります。FtsKタンパク質は、DNA形状のチェック、修復に留まっています。塩基配列のチェック機能は、今のところ確認できていません。このことから原核生物は、ミス複製を許容し増殖回数を増やす機構になっていると考えられます。
 
 
■DNAが働かない時期に、タンパク質が複雑な協働作業を実施
<注>より、DNA複製と同時に、栄養摂取や細胞分裂を行っていることがわかります。原核生物は、タンパク質、若しくはそれを生むRNAの働きに依拠した存在と考えられます。
 
 
参考
FtsKタンパク質 [5] 
プラスミド分配 [6] 
細菌にもセントロメアが存在した [7]
染色体サイクル  [8]
図解「細胞周期」/江島洋介著

[9] [10] [11]