2008-09-05

進化系統樹作成の根拠となっているDNA解析ってどんな手法?根拠は何?

どうも、雅無乱です。

先月のエントリー“現代人は、たった15万年前にアフリカにいたわずか数千の母集団から始まった”の議論の根拠となっている、遺跡から発掘される人骨から抽出したDNAを解析して系統樹を作成する手法について、「いったいどんな手法?」「どんな考え方?」「系統樹をつくれる根拠は?」「それってホントにあてになるの?(科学的なの?)」という質問を受けたので、あらためて調べてみた。

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もともとDNA分子を解析して共通の祖先を探る考え方の起源は、分子時計の概念の発見にさかのぼる。

分子時計の概念は、1960年、E・ズッカーカンドルとL・ポーリングという学者が、比較した生物間のある機能的タンパク質(ポリペプチド)で観察されるアミノ酸の置換数と、化石から推測されていた生物の分岐年代との間に相関性があることを見出した。「分子時計」とはそれを応用して出てきた仮説を用いている。

彼らの研究の「アミノ酸の置換」を、「DNAの塩基の置換」というさらにミクロのレベルで行える様になり(’80年代)、現存する生物のDNAを調べることで、分岐年代を推測する手法として用いられたため、分子時計は一躍脚光を浴びたわけだ。

DNA解析による進化系統樹の作成に用いられる最もポピュラーな被検体は、ミトコンドリアDNAのDループである。

なんで普通の染色体じゃなくミトコンドリアDNAなのか?
さらに、なんでそのうちの“Dループ”なのか?


国立遺伝学研究所のこのページ
→DNA人類進化学 ~ 1.遺伝情報から進化を探る「ミトコンドリアDNA」
http://www.nig.ac.jp/museum/evolution/02_a2.html に解説されている。

まとめると、以下の3点になる
①ミトコンドリアDNAでは核DNAの五倍から一〇倍の速さで塩基置換(=点突然変異)が起こっている。ゆえに比較的短い進化的時間の中で生じたDNAの変異も効率よく検出することができる。

②ミトコンドリアDNAは、母親由来のものだけが子供に伝わる。ゆえに、父系および母系の入りまじった核DNAとちがい、系統関係を復元するのに適している。


 ※参照:http://plaza.harmonix.ne.jp/~taka-m/mtcDNA.htm 
  

オレゴン保健科学大学のG. Schatten博士らは、一旦は精子によって受精卵に持ち込まれる父親由来のミトコンドリアが実は100個程度あること、そして、その精子由来のミトコンドリアには「ユビキチン(ubiquitin)」と呼ばれるたんぱく質の目印がついていることを明らかにしました。この、「ユビキチン(ubiquitin)」で標識された精子由来のミトコンドリアは、その中のDNA情報を受精卵に残すことなく、発生の過程で、受精卵の細胞質の中にある「破壊装置」(リソソーム)で選択的に破壊されてしまう

③「機能的に重要でない分子(または分子内の重要でない部分)ほど、そうでないものより進化の過程でアミノ酸やDNA塩基の置換が急速に起こり、置換率(進化速度)の最高は突然変異率で決まる」(国立遺伝学研究所:「分子進化の中立説」)ミトコンドリアは酸素呼吸に関わる重要な細胞小器官なので、たんぱく質をコードする遺伝子上に変異が起こった場合、不適応→淘汰となる可能性が高い。ゆえに機能的に重要な遺伝子ではない、ミトコンドリアDNAの中のジャンクDNAである“Dループ”が選ばれた。

             D-ru-pu2.jpg
解析とその結果が全体が分かりやすく解説されているページはこれ↓
ミトコンドリアが明かす-ヒトの起源とアイスマンの子孫-
(上のミトコンドリアDNAの画像は、このサイトより拝借)

DNA解析による進化系統樹の作成は、塩基配列のホモロジー(共通性)を指標になされている。

具体例を挙げれば、概ねこういうことである。

1)~ ATTATAC ~ GGAGTACC ~ TTATCGG ~
2)~ ATTATAT ~ GGAGTACC ~ TTATCGG
3)~ ATTATAT ~ GGAGTACA ~ TTATCGG ~
4)~ ATTATAT ~ GGAGTACC ~ TTATCGA
5)~ ATTATAT ~ GGAGTACAATATCGG ~


A=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシン
“~”の部分は1)~5)全てに共通する配列とする。

この場合、2)は第1群の最後がCへ、
3)は2)がもとでさらに2群の最後がCAへ、
4)は2)がもとでさらに3群の最後がGAへ、
5)は3)がもとでさらに3群の最初がTAへ変異した
“類推される”ので、系統樹は下のように書かれる(時系列に並んでいるというルールを前提にパズルを解いていくような感じ。かなり単純化して説明しているので注意)。

   1)
   ↓
   2)
  ↓   ↓
 3)   4)
 ↓
 5)


<つづく>

List    投稿者 nanbanandeya | 2008-09-05 | Posted in 6)“祖先の物語”番外編3 Comments » 

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コメント3件

 ruko | 2008.10.20 23:18

こんにちは。
中心体も色々研究されてるんですね。
すみません、ちょっとわからなかったので教えてください。
タキソール注入の実験で、細胞Cで起こった現象が微小管経路による信号伝達だけでは説明がつかないというのはどういうことでしょうか?
タキソールを注入したところは微小管が伸びなくてくびれにならなかっただけではないのですか?
微小管とかアクチンとかをよく知らないので、それで分らなかったのかもしれませんが、良かったら教えてください。

 バブル中 | 2008.10.25 21:25

質問です!
紫色の文字で書かれている部分に関してなんですが、
>真核生物の染色体分裂は微小管=チューブリンによってなされる<
というのは、紡錘糸がチューブリンできていて、紡錘糸が両端から引っ張って分裂させているからですよね。
では、
>原核生物のDNA分裂はアクチンによって行われる<
のアクチンとは何のこと、あるいはどんな働きをするものでしょうか?
原核細胞で紡錘糸のような役割をするものがあるんでしたっけ?

 NISHI | 2008.10.27 18:04

rukoさん、バブル中さんコメント有難う御座います+解答遅くなりました。ごめんなさい。
まずはrukoさんの質問から。
ちょっとややこしいんですが、rukoさんの言われるように、「細胞Cでタキソールを注入したところは微小管が伸びなくてくびれにならなかった」のだとすれば、細胞Bでも片側の微小管が伸びていないので、くびれは発生しないはずなのですが、バランスを崩しながらでもくびれている。
これはつまり、微小管による信号伝達だけでは説明がつかない=微小管以外のなんらかの信号伝達があると考えればスッキリします。
ちょっと解り難い書き方の為に、混乱させてしまったようですが、「微小管経路で説明つかない」のは、細胞Cではなく、細胞B=”片側しか微小管が出ていないのにちゃんとくびれる”なんです。
「細胞Cで説明がつかなくなる云々」と言う件は、「もし片側だけでも微小管が出ていれば、細胞Bのように両側からくびれる」のだとすれば、「細胞Cは2つの中心体から図の上側に微小管が出ている」ので、同じように両側からくびれないとおかしい。でも、図の下側はくびれていない。
だから、「片側だけでも微小管が出ていれば、くびれが発生する」と言うのは、「細胞Cで説明がつかなくなる」と言う意味で書いています。
なお、「バブル中」さんのコメントには、原核のスペシャリストである認識仲間が解答してくれるので、お楽しみに!

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