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デジタル化されて神経細胞ができあがった

膜電位の話 [1]がエントリーされていましたが、生物にとって電気はとても重要な媒体のようです。
◆細胞の電気的特性
細胞膜は主成分がリン脂質つまり油であり、電気的絶縁体です。細胞膜の厚さは約5ナノメートルに過ぎず、極板の距離が短いほど大きな電気容量をもつ絶縁体の機能を有しています。さらに小さな体積ほど表面積の比率が高くなり、絶縁体の電気容量を規定するもう一つの要素、電気容量は面積に比例して大きくなる点をあわせると、細胞膜には細胞の大きさに対して非常に大きな電気容量・電位差を有することになります。
つまり細胞膜があれば単細胞生物でも電気信号が存在するのです。
Cell_ElectricalProperties_s.gif
図の電気回路:上が細胞の外、下が細胞内、左のコンデンサCmが細胞膜、右の抵抗Rmがイオンチャンネルに相当する。

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通常、細胞膜の外にナトリウムイオン+が多く存在するので、電位差が生じます(厳密にはカリウムイオン+は細胞内に多くその他のイオンを含めた細胞内外のイオン濃度の差となります)。
細胞膜は5ナノメートル(5×10-7㎝)の薄さで、そこに100mVの電位勾配=電圧が生じます。これは1cm当たり20万Vも加わるような途方もない勾配なのです。
この巨大な電位勾配によって細胞膜内外のイオンは絶縁性の細胞膜に沿って配列して電気的二重層を形成し、またイオンチャンネルを通る電流として駆動されるのです。
単細胞生物にも膜電位は存在します。
ゾウリムシは餌となる物質から流れてくるカリウムイオン+が、細胞膜内に流入し電位差に変化を生じさせ(これをカリウム活動電位という)、それをきっかけに繊毛の打つ頻度を増加させ餌にありつきます。
障害物にぶつかれば繊毛は打つ方向を逆転させ、後退します。この時も衝撃に比例した活動電位が生じ、繊毛の打つ方向の逆転速度を規定します。
ゾウリムシでは刺激(カリウムイオンの濃度差や衝撃によるカルシウムイオンの流入)の強さに比例した電位差が生ずる、つまりアナログ的な電気信号で行動を制御しています。
一方、多細胞生物の神経細胞では刺激を受けても、すぐには活動電位は生じません。ある電位差まで変化して初めて、一瞬のパルスとなって生じます。ある神経細胞では-70mVの電位差(細胞の内側が負の電荷)がありますが、例えば神経伝達物質の働きによってナトリウムイオンが流入し+30mVまで電位差が変化し、カリウムイオンを大量に放出し元の電位差に戻ります。
こちらのアニメーションがわかりやすいので参照してください。
JST【脳機能の解明に挑むイメージング技術】

この活動電位は常に一定であり、発生頻度だけが異なります。人間の神経細胞は最大500ヘルツ、つまり一秒間に500回の活動電位=パルスを発生させます。
つまり神経細胞ではデジタル化して情報伝達を行っているということです。
70.png
デジタル化することで多少の波形の乱れても情報は1か0しかないので正確に伝わります。また、神経細胞間を結ぶシナプスで化学情報に変化しても、伝達物質の量としてデジタル化されています。神経細胞内で再びデジタル化され正確に伝達されています。
また、細胞間を電気的に接続せずにシナプスで結ぶことは電気情報が常に一方通行で流すことができるので情報の混線が生じません。
電気情報をデジタル化したことで神経細胞が成立したと言っても過言ではないでしょう。
<参考>
「生体電気信号とはなにか」杉晴夫 著 講談社
慶応大学SFG 生体情報論 [5]
wikipedia 活動電位 他 [6]

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