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くすりとイオンチャネル(膜輸送タンパク質)

細胞膜にあるイオンチャネルを調べていて、ふと、「イオンチャネルの研究って、何のためにしてるの?」と疑問がわきました。ひとつには、くすりの開発=創薬と密接につながっていることがわかりました。
以下http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/channel/ja/research/channel1.html [1]

タンパク質は,体を構成する主要な成分ですが,遺伝子の設計図に従って体内で作られ,その種類は少なくとも数万種類はあると考えられています。人間の体は数兆個の細胞によって作られていて,そのすべての細胞には多くの種類のタンパク質が含まれています。くすりはそういったタンパク質にくっついて(結合して)その作用を発揮します。
 細胞の表面は下の図のようになっていて,細胞の内側や細胞膜(脂質二重膜)には多くのタンパク質があります。これらはくすりから見ると次のように分けることができます。
受容体:もともと体の中にあるホルモンや神経伝達物質などが作用するタンパク質で,ほとんどは細胞の表面にある
酵素:化学変化の触媒となるタンパク質で,細胞の内部にあることが多い
膜輸送タンパク質:細胞膜の内外で物質の輸送・運搬をしているタンパク質なので,必ず膜にある。イオンチャネルもここに含まれる
核内受容体:細胞核にあって,遺伝子からタンパク質をつくるまでの段階の調節をしている

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今までに使われているくすりを分類した統計は何種類か公表されていますが,下の円グラフの左側にしめしたものはその一例で483種類のくすりを作用点で分類しています。これによると,受容体をターゲットにしている薬は全体の45%と最も多く,続いて酵素が約3割,また,作用点が不明なくすりがなんと2割もあることに驚かされます。ここで膜輸送タンパク質に作用する薬物は全体の5%と低い割合ですが,その中身を見てみると,作用が強力で切れが良く,実際によく使われているくすりが多いことが特徴です。
 それでは,この割合は将来も変わらないのでしょうか?そこで考えるべきは,今のくすりの作り方です。20世紀の終わりにヒトゲノム計画によって人間の設計図が解読されて以来,くすりの開発は「ゲノム創薬」が中心となっています。ゲノム創薬とは,体の中にあるタンパク質の中からくすりの作用点になりそうなものを選んで,くすりを作る方法です。
 では,ヒトゲノムの中にくすりの作用点となりうるタンパク質が何種類あるのか?この疑問に対しても数多くの推計が行われています。その一例を円グラフの右側に示しました。それによると,ヒトゲノムの中にくすりの作用点となりうるタンパク質は6650種類,その内訳は,受容体が3割,酵素が5割,膜輸送タンパク質は15%もあるようです。ということは,この膜輸送タンパク質をターゲットにしたくすりの開発(創薬)はずいぶん有望なように思えます。

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イオンチャネルをターゲットとしたゲノム創薬は有望視され期待されながらも、実際には立ち遅れています。その理由は、

一つは,酵素や受容体には内在性リガンドが存在し,それらをシードとした誘導体や阻害薬の設計が可能であるのに対して,膜輸送タンパク質の多くには天然の高親和性リガンドが存在しないためです。いわゆるシード化合物が天然に存在しなければ,天然の生理活性物質を手がかりに構造活性相関によって薬を作ってきたこれまでの手法が通用しないのです。
 もうひとつは,酵素や受容体では基質の化学変化や結合といった無細胞系での高感度な指標によってリガンドの生物活性を予測および高速スクリーニング(HTS)できるのに対して,膜輸送タンパク質は物質の膜輸送という,生きた細胞でなければ測定できない煩雑な実験技術がスクリーニングに必須となるためです。また,既存のHTS手法ではチャネルへの作用は間接的にしか調べることができません。最終的には細胞の電気的な活動をモニターする必要があるのです。

実験・研究方法の難易度の高さが、「イオンチャネル創薬」の立ち遅れを引き起こしているようですが、
より使いやすく一般的にすることで、チャネル創薬の活性化につながることが期待されています。
うらら

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