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RNAの不思議② ~詳細追求編~

引き続いて第2弾です。
基礎知識編をもとに、より詳細に突っ込んで追求してみましょう 😈


■RNAの特性
 さて、基礎知識編を元に、一歩突っ込んでRNAの特性を考えて見ると、RNAの特性は、以下の2つの機能を有している点にあることが解ります。

 ①情報的特性   
   複製して伝えることのできる塩基配列の情報をもっている。
 ②機能的特性   
   特異的な折りたたみ構造をとって、他分子と選択的に結合し、様々な機能
    (触媒機能(≒酵素機能)など)を有することができる。

 この2つの特性を、生体内のRNAは機能分化しています。
 ①の情報的特性を担っているのがmRNA、②の機能的特性を担っているのがrRNAとtRNAです。
 
mRNAは情報的特性を担うことに特化しているので、情報を素直に伝える一本鎖形状をしており、rRNAは複雑に折りたたまれてタンパク質と結合することで、リボソームを形成し、タンパク質合成の触媒機能を有しています。また、tRNAも複雑に折りたたまれ、一方ではmRNAとの「情報照合機能」を、一方ではアミノ酸との結合機能(触媒機能)を有しています。
 
 塩基配列情報による情報的特性に関しては比較的解り易いので、ここでは2の機能的特性にもう少し突っ込んで追求してみます。
 RNAの基礎知識で見たように、RNAはリボヌクレオチドが鎖状に連結した、一本鎖構造をしています。そしてDNAの特徴で良く知られるように、塩基は、GとCが、AとU(DNAではT)が結合します。
 この結果、例えば一本鎖RNAにGGGGと言う並びと、CCCCと言う並びが離れて存在する場合、溶液中(水中)でGGGGとCCCCが結合してしまいます。このような塩基配列同士の結合が形成されると、一本鎖RNAは三次元的に複雑に折りたたまれていきます。
 
 これがRNAの「折りたたみ」です。
 (このような現象は同じポリマーのタンパク質でも起きます。)
 例えば、以下のRNAは、元々一本鎖であるRNAの各部位の塩基配列同士が結合し、複雑な形状を取っている解り易い事例です。
 
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※部分的に塩基が水素結合で結合し、RNA全体が立体的に折りたたまれている。
 塩基の”台座”である糖(リボース)には、塩基の他にリン酸基が結合していますが、このリン酸基は溶液中で結合の”手”を出し、様々な反応をしたり、他の物質と結合したりする反応系の働きをします。(ヌクレオチド同士が結合して鎖を形成するのも同じ仕組み)
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※図中の黄色いひし形部分がリン酸基。O-部位が結合の”手”
 一本鎖状態のRNAでも、リン酸基部分は反応系の働きをある程度していますが、複雑に折りたたまれるほどに、リン酸基の結合する為の”手”が立体的で特異的な形となり、この立体的に作られる”手”とピッタリ嵌る物質に選択的に結合することになります。
  このような仕組みでタンパク質と結合しているのが、リボソーム(rRNA)であり、20種類のアミノ酸と選択的に結合するtRNAなのです。
 
 現在の生体化学反応において主要に利用されているのは、rRNAと結合するタンパク質と、
tRNAと結合するアミノ酸ですが、RNAと結合するのはそれだけではなく、その立体構造如何によって、大体どのような分子とも選択的に結合できるようです。
 
 すなわち、この「折りたたみ」とそれによる「選択的結合」が、RNAの「機能的特性」をもたらしていると言えます。
 
■RNAワールドの可能性?
 前回のなんでや劇場でも出されたように、今現在のところ、生物の起源は「RNA」にあるとする、”RNAワールド”仮説が最も論理性合成が高いのではないか?と考えられています。
 
 なぜか?
 それは、今まで見てきたように、RNAには①情報的特性②機能的特性の2つの特性が備わっているからです。
 情報的特性=複製して伝えられる情報を持たなければ、生命として不可欠な情報を次世代に伝えることができません。また機能的特性、中でも自己を複製する「自己触媒機能」を有さなければ、そもそも遺伝情報を複製していくことができません。
 非生命から生命へと、連続的に反応しながら変異し、「生体化学反応」を形成していく為には、この2つの特性が必要不可欠なのです。
 例えば、DNAには①の情報的特性がありますが、RNAと違って2本鎖で安定的な為に、②の機能的特性がありません。
 一方、タンパク質には②の機能的特性がありますが、その分子構造が単純ではない為に、①の情報的特性がありません。
 
 RNAだけが情報的特性と機能的特性の両方を持ちえた。
 だからこそ、原始生命はRNAに起源があると考える方が
 論理整合性が高いのです。
 
 
 しかしながら、生命起源を「RNA」と仮定した場合、自己触媒機能の具体的仕組みと、生命の触媒機能がRNAからタンパク質へと移行していく理由とその仕組み、そして情報機能がRNAからDNAへと移行していく理由とその仕組み等を解き明かす必要があります。
 これらの問題は今後の追及課題であり、なんでや劇場でも詳しく扱われていくのではないかと期待しています。
written by NISHI
reference data:MOLECULAR BIOLOGY OF THE CELL
(Bruce Alberts・Dennis Bray・Julian Lewis・Martin Raff・Keith Roberts・James D.Waston)

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