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7/27なんでや劇場レポート3~生命の基幹システムを探る~細胞周期に自然の摂理を学ぶ

7月27日のなんでや劇場レポートシリーズの3つめです。最初に、今回の劇場の論点を改めて振り返っておきます。
7月27日のなんでや劇場は「生命の基幹システムを探る②DNA・RNA・タンパク質の関連」と題して行われました。
6月はタンパク質の多様な働きと題して、タンパク質には4つの働き~①くっつく・つながる・反発する②化学反応をサポートする③かたちをつくる④はこぶ・うごかす~があることを押えて、特に細胞同士の結合様式に関連の深い①を中心に扱ったわけです。今回はではこのタンパク質はどのようにして作られているのか、をDNA、RNAも含めて理解することで②化学反応をサポートする、すなわち酵素としてのタンパク質の振る舞いも理解されました。
一般的にタンパク質はDNAを設計図としてRNAを媒体につくられていく、と認識されている(セントラルドグマ)わけですが、タンパク質合成の過程が明らかになるにつれて、タンパク質合成の過程にはたくさんの酵素タンパク質が関与していることが分かってきたのです。そうなってくると、ではそのタンパク質をつくるためのタンパク質はどうやってつくられたのか、あらかじめDNAに書き込まれていたのかどうか?が疑問として登場してきます。
果たして
DNAが生命の全ての出発点であるというセントイラルドグマは本当に正しいのか?
生命の基幹システムにおいて遺伝子とタンパク質はどちらが先なのか?
遺伝子のうちDNAとRNAのどちらが先なのか?

このテーマが次回以降の追求テーマになってくるのです。
さて、「DNA・RNA・タンパク質の関連」という点では、タンパク質合成(すなわち転写→翻訳)にならぶもうひとつ重要なイベントは「細胞増殖or分裂=DNAに注目するとDNAの複製と分配」です。レポート3では、この細胞が増殖していく活動サイクル=細胞周期についての劇場での気付きを報告します。


まず、細胞周期は以下の4ステップから構成されています。
M期→G1期→S期→G2期
 ↑            │
 └────────┘            
教科書的にはS期がDNAの複製期で、M期が細胞分裂期。G1、G2は次のステップに進む準備期間と位置づけられています。もう少し詳しく見てみましょう。
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G1期:G1期はS期=DNA複製の前段階として、RNA合成、タンパク質合成を行う、栄養成長期と位置づけることができると思われます。この過程で、細胞の退席や細胞内小器官の量が約2倍になり、DNA以外で細胞分裂に必要なものがそろうのです。なおこの段階でDNA複製に必要な酵素タンパク質も準備されます。また増殖サイクルを続けるか、止めるかの分岐点もこのG1期の中にあります。
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S期:DNA以外のものの増殖の準備が出来たら、続いて細胞はDNAの複製段階に入ります。この時、DNAをまきとっている糸巻きの芯にあたるヒストンも複製されます。そして複製元のDNAと複製されたDNAは動原体というタンパク質のとめものによって連結されています。
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G2期:複製されたDNAのチェック期間です。
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M期:G1~G2の間はDNAはヒストンに撒き付けられた状態で存在していますが、増殖する時には、よりコンパクトに凝集された染色体という形態になります。そして細胞核の近辺にあった中心体が複製され細胞の両極に移動し、この中心体から先ほどの動原体目掛けて紡錘糸が投げられ、染色体がきれいに両極へと移動していきます。両極に集結した染色体を周囲に角膜、小胞体、ゴルジ体が形成され、細胞小器官が2セットそろうと、収縮環が形成されて、細胞が分割されます。こうして細胞分裂が完成します。
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細胞は、まずタンパク質とRNAを倍化し、そしてDNAを倍化するという巧妙なステップを踏みながら増殖くしていくのです。
・・・・・ただし、以上は真核細胞における細胞周期です。
実は、細菌、原核細胞はこのような巧妙なステップはもっていません。それどころか、増殖のスピードが速く、細胞分裂が終わる前から次の増殖に備えたDNA複製を始めているというから驚きです。
>真核細胞では細胞分裂から細胞分裂までの事象、細胞周期、は、G1、S(DNA合成期)、G2、M(細胞分裂)が、この順序で正確に進む。M期が終わらずに次のS期に入る事はない。細菌では、細胞分裂が済まないのに次のDNA合成が始まる。つまり、真核細胞では「細胞分裂をしていると云う」シグナルがDNA合成期へのコミットを抑え、DNA合成をしていると云うシグナルが細胞分裂を抑えているが、細菌では、そのようなシグナルによる細胞内の密接な調節はなく、増殖の速い菌では、細胞分裂とDNA合成が同時に起こる。ただし、既に述べたように、DNA合成開始から一定時間後に細胞分裂が起こるので完全にDNA合成と細胞分裂が勝手に起こると云うことではない。http://jsv.umin.jp/microbiology/  [1]
原核細胞と真核細胞では何故、このように増殖プロセスに違いがあるのでしょうか?
おそらく、原核細胞は、外界に栄養がなければじっとする、栄養があれば増殖する、という外圧依存度の高い増殖スタイルをとっています。そのため、栄養がある時は、一気に増殖する必要性が高く、タンパク質合成・RNA合成過程とDNAの複製過程とを分けずにどんどん同時的にやるというスタイルになっているのでしょう。
他方で、真核細胞では、厳格にタンパク質合成・RNA合成過程とDNAの複製過程とを分けています。それはタンパク質合成過程ではDNAは部分読み取り方式なのに対して、複製時にはDNA情報の全数コピー方式をとる必要があるため、ではないかと考えられます。真核細胞は原核細胞に比べて圧倒的に多くのDNA情報を溜め込んでいます。しかも多細胞動物化した真核細胞にとっては、その持ち場持ち場で必要なDNA情報は異なります。そのため、真核細胞は、その役割に応じて必要な情報だけを部分コピーする仕組み(スプライシング)を持っているのです。もしこの部分コピーシステムを真核細胞が編み出さなかったら、これだけ多様な役割を担う細胞群を作ろうとしても時間がかかりすぎてうまくいかなかったことでしょう。
タンパク質合成における部分コピーの仕組みがあったればこそ、私たち真核多細胞生物は、ここまで複雑な仕組みを手にすることが出来たという訳です。
・・・・ということは、多様な成果品を生み出すには、どこにどの情報があるのか、整理整頓が必要。整理整頓こそが仕事のスピードアップと高度化の決め手ってことです。・・・・これぞ細胞周期に学ぶ自然の摂理であり、仕事の奥義・・・今回も細胞に教わることの非常に大きかったなんでや劇場でした。

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