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書籍紹介:タンパク質の一生

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今日は生物学の書籍を紹介します。

タンパク質の一生 ―― 生命活動の舞台裏 ――
永田和宏(著) 
岩波新書 2008年6月

生命活動の主役ともいうべきタンパク質、その誕生~成長~移動と働き~そして分解されるまでのサイクル(これが秒単位で繰り返されている!)と、それを支える細胞の精巧なメカニズムが解説されている書籍です 😮
タンパク質入門の教科書としておすすめです
(内容は結構高度ですが面白いですよ

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この本を読んでの気づきをいくつか・・・

●分子シャペロンというタンパク質の存在
分子シャペロンというのは、できたてのタンパク質を上手にリードして本来働く位置に連れて行ったり、故障してしまったタンパク質を検知して修理する役割を担っている「タンパク質の世話をするタンパク質」
できたてのタンパク質は実はかなり不安定で、放っておくと不安定なものどうしで多数くっついて、こんがらがって使い物にならなくなります。そうならないように、タンパク質の成長を手助けする、タンパク質が健全に機能するために不可欠の存在です。

(「シャペロン」という言葉はフランス語で介添え役の意味。西洋社会で、若い未婚女性が社交界(=性市場)にデビューする際に付き添う年上の女性のことです。ここから転じて、タンパク質が正常にデビューできるようなサポート役(分子の介添え役)・・・という比喩で命名されたそうです)

下記サイトでわかりやすく解説されています。
タンパク質の世話をするタンパク質、分子シャペロンについて [4]
(東京工業大学 – 資源化学研究所・生物資源部門/生物電子化学講座 より)

ちなみに、この分子シャペロンの起源は古く、古細菌・真正細菌にも存在し、真核生物では細胞本体に古細菌と相同のシャペロンを持ち、オルガネラに真正細菌と相同のシャペロンを持ちます。

●タンパク質の品質管理システム
生命が維持されるためには、タンパク質の生成システムが正常に作動する必要があります。そこには精巧なメカニズムがあるのですが、故障や失敗作も結構生まれます。これを放置しておくと細胞が生きていくための障害になってしまいます。そこで、細胞内には、タンパク質の品質管理システムがあるのです。

この品質管理は4段階になっていて、

(1)生産ラインの停止
・mRNAからポリペプチドへの翻訳過程を止め、とりあえず異常タンパク質の合成をやめさせる指令を出す
(2)不良品の修理・再生
・分子シャペロンを緊急誘導して、変性したタンパク質を作り直し、再生する。
(3)廃棄処分
・元々の設計図に間違いがあるような異常タンパク質は、シャペロンでも直せない。正常なタンパク質にまで被害を及ぼす可能性があるので、分解、廃棄する。
(4)細胞アポトーシス
・それでも異常タンパク質を処理できない場合、つまり異常なタンパク質しかつくれない細胞は、細胞ごと殺してしまいます。

この4つの反応は、同時に起こるのではなく、時間差で(少しずつずれて)起こるのだそうです。
この方法でダメなら次の手段、それでもだめなら次の手、そして最終手段・・・という感じでしょうか。

このような精巧なメカニズムで生命が支えられていることに改めて驚きました

最後に、この本の目次を紹介します。

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■目次
はじめに―細胞のなかの働き者、タンパク質

第一章 タンパク質の住む世界―細胞という小宇宙
身近なタンパク質から/素材となる「アミノ酸」/一本の「ヒモ」/数え切れない種類のタンパク質/骨格も、酵素もタンパク質/仕事人、タンパク質/細胞生物学/細胞の条件/生体のヒエラルキー/動物も、植物も/細胞の構造/タンパク質を作る「小胞体」/ミトコンドリア/共生細菌がミトコンドリアに/細胞の進化/共生関係の成立/DNAとは何か/DNAの情報量/すべてはタンパク質のために

第二章 誕生―遺伝暗号を読み解く
二重らせんモデルの衝撃/DNAの暗号から/セントラルドグマ/すぐれた情報保存システム/DNAの複製/DNAの糸を巻きとる/RNAの働き/RNAワールド/転写のプロセス/情報の翻訳単位、コドン/暗号の始点と終点/翻訳機械リボソーム/転移RNA(tRNA)/どれくらい時間がかかるか/試験管内翻訳装置

第三章 成長―細胞内の名脇役、分子シャペロン
分子シャペロンの発見/折り畳んで形を作る/四つのヒエラルキー/親水性、疎水性/フォールディングの大原則/アンフィンゼンのドグマ/試験管の中、細胞の中/タンパク質の凝集/介添え役、分子シャペロン登場/熱ショックタンパク質からストレスタンパク質へ/ストレスタンパク質から分子シャペロンへ/大腸菌で働くシャペロン/ゆりかごの中でのフォールディング/「電気餅つき器」の仕組み/正しくフォールドするのはこんなに難しい/ストレスタンパク質/タンパク質の修理屋/ゆで卵が生卵に!/シャペロンの動作原理は三つ/脳虚血/ストレス耐性の獲得/移植手術への応用/がん治療とストレスタンパク質/温熱療法の実際/好熱菌のストレスタンパク質/生命を守るシステム/ストレス応答の仕組み

第四章 輸送―細胞内物流システム
「輸送」の精巧なシステム/宛先の書き方―葉書方式と小包方式/タンパク質の輸送経路/リン脂質の「膜」/「チャネル」を作る膜タンパク質/シグナル仮説/翻訳共役輸送―針穴通しの名人芸/糖鎖の付加―タンパク質の化粧直し/小胞体の中でのフォールディング/クリップどめ―ジスルフィド結合/細胞の「内なる外部」/「小包型」の荷札―宅配便の便利さ/貨物輸送のレールとモータータンパク質/細胞内交通上りと下り/流通センター、ゴルジ体/ゴルジ体からの逆行輸送/外から内へ―エンドサイトーシス/インスリンの分泌/コラーゲンの合成/HSP47の発見/分子シャペロンと病気/ミトコンドリアへの輸送/中に引き込む爪歯車/出入り自在の核輸送/輸送インフラは生命維持の基盤

第五章 輪廻転生―生命維持のための「死」
不老長寿の夢/タンパク質の寿命/入れ替わるタンパク質/日々生まれ変わる細胞/アミノ酸のリサイクル・システム/分解シグナルの名はPEST配列/細胞周期に必要なタンパク質分解/「時計の遺伝子」/ショウジョウバエの時間遺伝子/時刻合わせの装置/自分を食べて生き延びる?/選択的に分解するか、バルクで分解するか/ユビキチンは分解の目印/分解機械・プロテアソーム/すぐれものの「リング型分子機械」/大食漢・オートファジー/分解の安全装置/細胞の死/タンパク質の輪廻転生

第六章 タンパク質の品質管理―その破綻としての病態
「品質管理」の必要性/リスク・マネージメント/工場の品質管理/細胞内の四段階の品質管理/不良品が生じる場合/第一の戦略―生産ラインのストップ/第二の戦略―修理工シャペロンの誘導による再生/第三の戦略―廃棄処分/第四の戦略―工場閉鎖/品質管理の破綻としての病態/血友病/フォールディング異常病の発見/神経変性疾患/「赤い靴」の病/ポリグルタミン病発症のメカニズム/再生できない神経細胞/アルツハイマー病/さまざまな海綿状脳症/ヒトのプリオン病/伝播型プリオン/プリオンの感染力/BSEの脅威/プリオンと分子シャペロン/アルツハイマー病のメカニズム/新しい治療法に向けて

あとがき
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