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認識機能の進化(単細胞から多細胞へ)

認識機能というと、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感を思い出します。この五感を詳しく調べていくと、一つ一つの細胞に感覚器としての機能があり、その機能の殆どが単細胞の時代に獲得されていることが分かります。
下の図は視細胞と光受容体の関係を表しています。視細胞が光を感じることが出来るのは、細胞膜にあるロドプシンという光受容体タンパク質のおかげです。
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(この図版は京都大学理学研究科七田研究室 [1]詳しい研究内容の紹介 [2]からお借りしました)
細胞は進化の過程で、どのようにして認識機能を発達させてきたのでしょうか。興味のある方は、読む前に応援もお願いします。
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①認識機能の土台1=生体膜
認識機能が成立するためには、内外の区分が必要です。そういう意味で内外を分けている生体膜は認識機能の土台ということが出来ます。
②認識機能の土台2=タンパク質等の物質特性
認識機能はタンパク質等の有機物が、くっついたり、反応したりする物質特性があって初めて実現します。
例えば先にあげた視覚の例では、ロドプシンは、光を受容するとレチナールが11-シス型から全トランス型に異性化し、活性状態になります。この活性状態がG蛋白質を介した情報伝達系を駆動し、視神経に興奮をおこさせ、光を認識します。易しく言うと、ロドプシンは光を受けると形が変わり、その刺激が視神経に興奮を起させます。
③認識機能の第一段階=生体膜輸送タンパク質
膜は内外を分けていますが、外界から物を選択的に取り込んだり排出する事が出来なければ、成長・進化することはできません。生体膜輸送タンパク質は、タンパク質の形そのものが認識機能を持ち、タンパク質の形にあったものを取り込んだり捨てたりします。
生体膜に輸送タンパクがくっつくことで、細胞膜は有用な物質を集めて成長進化し、さらに多様な認識機能を発達させていったのではないでしょうか。
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(この画像はウィキペディア「エンドサイトーシス [6]」からお借りしました)
④認識機能の第二段階=細胞内輸送タンパク質
膜内に多様な物質を取り込んでも、細胞内でそれらの物質が効率よく加工され、必要なタンパク質などの物質が作り出されないと成長・進化することは出来ません。
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(この画像は高エネルギー加速器研究機構の「運び屋タンパク質の耳 [7]」からお借りしました)
⑤認識機能の第三段階=受容体タンパク質
細胞内に有機的な働きを持つ構造がある程度できるようになると、外部の状況を内部に伝え、何らかの働きを起す機能に意味が出てきます。
例えば、細胞内のタンパク質の働きで、体の一部を動かす事が出来るようになれば、細胞外の物質濃度の変化を感じて体を動かし移動することも可能になります。
受容体タンパク質は、受容体部分に何らかの物質がくっつくことで外界の状況を認識し、受容体タンパク質の細胞内部分が形態を変えたり、分子を放出することで、細胞内に信号を伝え、細胞内の組織や構造に変化を生み出させる役割をします。
受容体タンパク質の機能の中には、同類が分泌する物質を感知して、同類同士が集まる同類認識機能も含まれていると思われます。
⑥認識機能の第四段階=分裂認識
多様な物質を収集し、新たなタンパク質などを作り出すことが出来るようになっても、同じ細胞を複製することが出来なければ生物とはいえません。ある程度の量の物質を収集し、新たな物質を構成できた段階で、分裂する時期を認識する必要があります。
また、細胞の進化が進むと、環境に栄養が豊富なときは細胞分裂を行い、環境に栄養が枯渇すると分裂をやめ胞子形成を行うようになります。分裂認識には細胞外部の認識と内部の認識の両方の機能が関係しています。
⑦認識機能の第五段階=膜認識(膜同士の反発)
分裂した細胞同士が、すぐにくっついてしまったのでは分裂する意味がありません。また、違った細胞同士が簡単に融合してしまっては、生命の同一性が保てなくなります。進化のどこかの段階で膜同士は反発し、簡単には融合しないような機能が形成されている必要があります。
生体膜の外面には糖鎖が全面的に付着しており、糖鎖の末端にはシアル酸というマイナスの電荷を持った糖が結合しています。細胞表面にはマイナス電荷の層が形成されることになります。この糖鎖が細胞膜同士が容易に融合しないようにする反発機能を持っている可能性が高そうです。この機能は認識機能獲得の早い段階で獲得されていることも考えられます。
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(この画像は堀戸研究室 [8]の「細胞の外壁バリアー機能 [9]」からお借りしました)
⑧認識機能の第六段階=接合認識(同類同士の接合)
単細胞生物は進化する過程で遺伝子の一部を交換する機能を獲得しています。これは、膜同士は基本的に反発することになっていますが、その中から同類でなおかつ一部微妙に自分とは違う相手を認識し、反発を解除する機能と考えられます。
粘菌などで、栄養状態が悪くなると細胞融合を行うものもいますが、細胞融合も接合認識の一種と捉えることが出来ます。
⑨認識機能の第七段階=細胞結合認識(多細胞化)
多細胞化に必要となる認識機能はさらに二段階に分けられます。第一段階目が、同類同士での役割認識。第二段階目が同類同士の役割を踏まえた細胞結合です。
同類同士での役割認識は、多細胞になるまえの群体の段階で獲得している必要があります。群体の中心にいる細胞と外縁部にいる細胞で異なる役目を行うように、自分の位置=仲間と外界と自分の位置関係を認識し、自分が担うべき役割にあった細胞内活動を行うようになります。例えばボルボックスでは内部の細胞が生殖細胞になります。
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(この画像は生命誌ジャーナルの「ボルボックスで見る多細胞生物の形づくり [10]」からお借りしました)
このような有機的な細胞間の連携活動がある程度出来る用になった段階で無いと、細胞同士がくっつく多細胞化のメリットはあまりありません。
細胞同士が近接して、相互にタンパク質などの物質を恒常的にやり取りするような関係が出来てから後に、最適な位置関係を安定的に維持する細胞結合が行われるようになったと考えられます。

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