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NK細胞の起源考~種の存続のための多様性戦略から免疫を考える

6月のなんでや劇場レポートが始まっていますが、今日は5月のなんでや劇場のテーマであった免疫の起源論についてです。
無脊椎動物におけるNK様の活性について、星口動物ホシムシについてかかれたものをみつけました。以下、「岩波講座免疫科学4~免疫系の発生と進化」1985年7月刊からです。
>ホシムシの遊走細胞には異種の血球に対するナチュラルキラー細胞活性が in vitro で検出されるし、系統的に離れていれば異系個体の血球に対しても障害反応が起きる。ホシムシで調べられたこの反応は、(1)数時間以内に反応が起きる。(2)エフェクターと標的細胞の組み合わせが異系間、異種間のいずれでも起こる。(3)あらかじめ in vitro で標的細胞を注入すると in vitro での障害効果は弱くなる、などの点で、齧歯類にみられるNK活性と類似している。
遊走細胞がある条件下で細胞障害反応を起こすということは、これこそNK細胞の起源といっていいでしょう。


samehadahosi.jpg
↑ホシムシの比較的かわいい写真です。こちらのブログ [1]よりお借りしました。
ホシムシは、星口動物門に分類され、環形動物もしくは軟体動物の仲間とされています。つまりミミズ、ウミウシの仲間ですね。カンブリア期の化石からもみつかっており、進化の証人ともいえます。医科免疫学という本には環形動物にはNK様細胞がある、と書かれていますし、ミミズの中には特異的に癌細胞を認識して殺傷能力を示すパーホリン様蛋白があるとの報告もあります http://miwakenko.com/runburukusu.htm ので、星口動物、環形動物の登場=カンブリア大爆発においてNK様の細胞がつくられたといっていいでしょう。
どうしてカンブリア大爆発の時代にNK様細胞が発生したのでしょう?同種細胞のうちある特定のなにかを見分けて殺傷する、というリスキーな行動をおこす細胞をどうして許容したのでしょうか?
NK細胞とは何か?について「無脊椎動物の生体防御 第2章 免疫系の進化」において 村松繁先生は以下のような仮説を提起しています。
動物の多様な種分化は、動物界全体の地球上での存続を保障するための、いわば危険分散的策略である。・・種とはお互いに少しずつ異なった個体の集合体であるほど、存続に有利である。(ところが動物は)運動するためには体が柔らかくなければならず、体内に他個体の細胞が侵入して入れ混じってしまう恐れがある・・・(そうすると)種間でキメラが生じ、種の個性も損なわれてしまうことになる・・・動物体にとってキメラ状態を回避することは・・きわめて重要なことである。そのため主に2つの方策が進化した。ナチュラルキラー細胞とリンパ球の形成がそれにあたる。
スジホシムシの白血球は他個体の赤血球を傷害する。この場合、どの他個体でもよいのではなく、選択性が認められ、AがBの赤血球を傷害するのは、Bの白血球がAの赤血球を傷害する場合に限られる。一方群体のホヤでは遺伝子型ABの群体は、AXあるいはBXと癒合するがCDのように癒合に関連する遺伝子に共通性のないものとは癒合しない。(これらは)ナチュラルキラー細胞の一特性の表れである。

成る程、つまり、種の存続のためには群体or個体の多様性確保は不可欠だが、表面が柔らかく、他個体の細胞が入り混じりやすい動物においてナチュラルキラー細胞が登場したというのだ。
これはおおいに納得できる仮説である。特に、急速に種の多様性が進み、海中において他の動物たちと激しい食闘争を繰り広げていたカンブリア大爆発期においては、食われた仲間の体液が生き延びた個体に侵入してくることはおおいにありえたであろう。他方で体内に侵入してくる細菌類に打ち勝ち、生き残るためには少しずつ異なる血球を持つことも不可欠であっただろう。
このように激しい種間闘争圧力を背景に多様性を模索する中で、多様性を確保すべく血球同士が攻撃し合う情況が生まれたと考えれば、カンブリア大爆発にNK細胞が発生したという考えが説明できる。
免疫というと個体認識能力ばかりが注目されるが、個体認識の背後にある種の多様性戦略がある、という視点を組み込んだ考察は少ない。松村仮説はその点で、注目に値すると思う。

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