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5/25なんでや劇場レポート3~ 敵もさるもの、免疫進化を上回るウィルス進化にご用心!

「脊椎動物の血球及び管組織の進化」を間に挟んで5月25日のなんで屋劇場レポート3を続けたいと思います。
レポート1では「造血肝細胞から免疫細胞がつくられていく仕組みは不均等分裂と均等分裂からできている」という点を
レポート2では「リンパ球は変異にかけた存在であり、従ってリスクも大きい」という点を、お届けしました。
レポート3として「免疫のチームプレーの起点をなすマクロファージの抗原提示はおびき寄せ作戦である」しかし「敵もさるもの、免疫進化を上回るウィルス進化にご用心」をお届けしたい。


4月にも扱った免疫のチームプレーであるが、その起点はマクロファージであり、マクロファージの抗原提示を起点にしてそこからT細胞さらにはB細胞が起動している。
病原菌に犯された体細胞
     ↓
マクロファージによる貪食
     ↓
マクロファージが細胞表面に消化後の病原菌の一部を「抗原提示」する。
     ↓
ヘルパーT細胞活性化  ────┐
     ↓          ↓
キラーT細胞による攻撃  B細胞増殖が活性化
                        ↓
               病原体を認識する抗体が産生──┐
                        ↓           ↓
                  抗体が病原体を捕獲    リンパ節にB細胞の一部が保存
                        ↓           ↓
                 マクロファージによる貪食    2回目以降は迅速に反応

この連携プレーの起点でもあるマクロファージ自身の細胞表面への抗原提示をマクロファージはどうして始めたのであろうか?このマクロファージが細胞表面に抗原提示をするということがなければ、この後の連携プレーはつくられていかなかったわけだから、この「マクロファージが細胞表面に抗原を提示するのはなんで?」は重要な問いであろう。
この「なんで?」に答えるには改めて膜タンパクが持つふたつの性格「親和性と反発性」が鍵を握る。つまり病原菌の細胞の一部がマクロファージの細胞表面に提示されていることで、同類である病原菌は親和反応を起こして寄り付いてくるのではないか?と考えられるわけだ。つまり、「マクロファージによる病原菌のおびきよせ作戦」である。
こうして、以降形成される免疫細胞は全てマクロファージが提示した病原菌の一部とぴったり鍵穴があうような構造をつくりだすことで、反応を活性化させていくことになるわけである。しかし、このようにして病原菌とピッタリくっつく仕組みを体の中に増やしていくことで、逆に病原菌がよりつきやすくなったのではないか?という疑問も生じる。
よく考えてみると細菌は単細胞生物であり、免疫細胞を持つのは多細胞生物である。そして生命の多様性=変異促進を実現したのは多細胞生物の方である。つまり多細胞生物が、細胞同士を連携させるために生み出していった膜タンパクの多様化(それはつきつめれば親和性の増強を招く)が細菌を招き入れていったのである。そして、そこから細菌自身も適応度を上げるために多様化を進めるという免疫細胞と細菌同士のいたちごっこというべき戦いが始まったのではないか。
この免疫細胞が生み出したいたちごっこはウィルスにおいてより顕著な現象を見せ始めている。ウィルスが免疫との闘いを通して進化し、免疫細胞自体を標的とするウィルスが登場し始めたからだ。つまりエイズウィルスのことである。
免疫システムの中心、いわば司令官にあたるのが白血球の中のリンパ球の一種、「ヘルパーT細胞」です。ヘルパーT細胞は体内に侵入者を発見すると他の免疫細胞に指令を出して攻撃を命じます。ところが体内に入ったHIVは、このヘルパーT細胞に好んでとりつき、どんどん自分をコピーし増殖して、やがてこの細胞を破壊してしまいます。
HIVはこれを延々と繰り返すので、ついに免疫システムは司令官を失い、結果免疫が正常に働かなくなるのです。こうなると健康なときには何の害にもならない微生物や病原菌も退治できなくなり色々な病気にかかるようになってしまうのです。

http://www.actagainstaids.com/what.html より
勿論、ウィルスとの闘いは勝つか負けるか、だけではありません。むしろ戦いの果てに「共生」となるケースも多いのです。例えば、ヘルペスウィルスはたいていの人に取り付いています。小さい頃に誰もが経験する水疱瘡がそれです。そしてヘルペスウィルスは神経細胞の中に住み着いているのです。勿論元気な人であればなにも発病しません。しかし、ストレスから免疫力が低下したりすると帯状疱疹となって発病することがあります。
また免疫の土台ともいえる腸は様々な菌類が住み着き、それが時には私たちの体を守ってくれています。免疫と細菌たちは激しい変異と闘いを経てある種の共生の道を選んだのです。しかし、清潔を至上価値とする近代生活の中で、体内からサナダ虫を追い出し、結核菌を排除していった結果、免疫バランスが崩れ、各種の免疫不全病が多発しています。アレルギーはその最たる例です。近代の医学・薬学は一方的に細菌・ウィルスを排除することでかえって細菌・ウィルスを活性化させ、無用な闘いを引き起こしているのではないでしょうか?そして自分の首を絞めることになっているのではないでしょうか?
闘争適応と(その果てに実現される)共生適応・・・なんで屋劇場で免疫を学ぶことで、自然の摂理に立脚した社会の仕組みを考えるヒントがまたひとつみつかったように思います。

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