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無脊椎動物の血球及び管組織の進化

なんで屋劇場でも一部扱われましたが、血球及び管組織の進化について、基礎知識の整理と考察を試みてみたいと思います。
●無脊椎動物の血球進化について
まず脊椎動物へ連なる系統に限定して無脊椎動物の免疫について整理してみます。
その際4月のなんで屋劇場で提起されたように、まずは進化の大筋を踏まえて考える必要があります。ポイントは5.5億年前のカンブリア大爆発と言われる大きな変化でしょう。5.5億年前のカンブリア大爆発は種の多様性を生み出し、それに伴う種間闘争の熾烈化が更なる多様性を生み出す・・・という闘争適応の連鎖反応の中で生み出されたものと思われます。そして前者は現在生息している動物から類推すると、棘皮動物や原脊動物にその名残があるものと考えられます。そこで改めて、棘皮動物や原脊動物とそれ以前の免疫及び血球の違いを整理してみましょう。


○原生動物(ゾウリムシ、アメーバ)・・単細胞動物はそれ自体が食細胞である。同種他個体への食作用は抑制されている。
○海綿動物(カイメン)
外側の上皮細胞、内側の襟細胞に挟まれた間充ゲルの中に原生細胞と呼ばれる遊走細胞(アメーボサイト)がおり、食作用を持つ。この原生細胞は万能性を持ち、卵母細胞の母体ともなる。http://www.biological-j.net/blog/2008/05/000463.html [1]また違う色のカイメンを混ぜ合わせても混ざらないことから、同種か否かを識別する能力はあるといえる。
○腔腸動物(サンゴ、ヒドラ)
カイメン同様遊走細胞を持つ。(ただし、ヒドラでは食作用は欠落させている)同種異系や異種の移殖片拒絶反応があるが同種同系の移殖片は自己と同じように認識する。
以上が棘皮動物以前の免疫機能の特徴です。つまり腔腸動物以前の段階では万能性を有する食細胞(原始マクロファージ)しかいません。ヒドラは食作用を欠如させているくらいですから、外敵を排除するという食作用よりも、神経細胞etcに分化していく万能性の方にこそその本質があるというべきでしょう。それに対して、棘皮動物、そして脊椎動物の前駆形態というべき原脊動物の血球は多様化を見せています。
○棘皮動物(ウニ、ヒトデ) 
アメーバ状細胞(糸状突起を持ち酵素を使って異物を消化する食細胞)、鞭毛細胞(粘液状のコム多糖類を細菌に放出して動きを止める)、桑実状細胞(コラーゲンをつくり傷口の修復再生を行う)などの血球、リンパ球様の細胞が存在する。同時に体腔液内にはレクチンや補体に似た殺菌素、溶菌素等、液性の生体防御物質も存在する。
○原脊動物(ホヤ、ナメクジウオ)
アメーバ状細胞(顆粒を持つ食細胞)、桑実状細胞(大型の異物を包囲する役割と傷口からの体液流出を防止する役割を持つ)などの血球、リンパ球様細胞が存在する。
多くのホヤの血球に細胞障害性が記述されている(ただし、NK細胞のような接触、接着を行っているか等の詳細は不明)尚、リンパ球様細胞の血球にしめる割合はマボヤの場合で0.4%程度。
以上、「動物の血液細胞と整体防御」菜根出版1997から要約。
このように棘皮動物以降、血球は多様化を見せていきます。リンパ球についてはその詳細は不明ですが「ホヤの血球に細胞障害性が記述されている」とありますからNK細胞の祖先と特定することは難しいとしても、NK的なものが原索さらには棘皮動物の段階で登場していた可能性は十分あると考えられます。
●管組織の進化について
棘皮動物以前の動物は二胚葉生物、以後の動物は三胚葉生物という区分けも出来ます。二胚様動物は外胚葉=上皮と内肺葉=腸等の消化器官しかなくその間は体液で充たされているだけで臓器を持たないのですが、三胚葉生物になれば、外胚葉と内胚葉の中間部分(中胚葉)に今までになかった臓器が形成され始めます。生殖細胞と一般体細胞の役割分化が固定されたことで、体細胞の専門分化が飛躍的に進んだのだと考えられます。
現存する棘皮動物には運動=捕食能力を上昇させるための筋肉と一体化した骨片・骨板、またそれら運動器に酸素エネルギーを運ぶための原始循環器(水管)が存在します。(水管は腔腸動物段階でも見られる。)詳しくは2008年3月14日の当ブログ記事を参照下さい。http://www.biological-j.net/blog/2008/03/000414.html [2]
また原索動物(ホヤ)の段階にくると、心臓、肝臓などの臓器が存在し、また血管も存在します。ただし血管は末端は開放されており、血流は周期的に逆転し、動脈、静脈の区別はありません(毛細血管もない)。
このような運動器・循環器の進化に伴って血球系の細胞も進化、専門分化を進めて行ったのでしょう。
これらカンブリア大爆発以降の進化を土台に、脊椎動物は本格的なリンパ管及びリンパ球を作り上げていくのです。

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