- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

母子間の免疫寛容

%E8%83%8E%E7%9B%A4Gray39.png
<ウィキペディア 胎盤の構造 リンク [1] より引用>
よく胎生を行う哺乳類では、母子間の免疫寛容はどういう仕組みになっているのか?という声が聞かれます

具体的には、、、
胎内保育を行う哺乳類の場合、母体側からみて胎児は(父親由来の遺伝子も持っているので)、異物であると認識しそうなものです

胎児が異物だとしたら、母体(もしくは胎児側の)免疫機能が働いて攻撃しそうなものですが、実際は、十月十日間、胎児は母体のおなかの中でスクスク と育っていきます
(もちろん、ばい菌のように完全な異物とは認識しないでしょうから、やや異物と認識するのでしょうが。。。)

このような現象を一般的に免疫寛容と呼びます。

免疫寛容の仕組みはどうなっているの?って考えれば考えるほど不思議ですね 🙄

そこで今回は、胎盤の免疫寛容に焦点をあて、母子間の免疫寛容について、記事を書いてみたいと想います。

実は、この件に関しては、生物学会でもこれだという明確な答えは出ていません 😥
参考までに生物学会の定説として、以下のような4つの仮説が提唱されているようです

①胎児は抗原として未熟であり母体免疫系によって認識されない。
②胎児胎盤は子宮によって母体免疫系から完全に隔離されている。
③妊娠母体は免疫機能が著しく低下しており、胎児を拒絶できない。
④胎盤が免疫バリアを行っている。



しかし、いずれも反証事例があり、どの仮説も決め手に欠けているようです 😥
先に進む前に、いつものヤツをお願いします
ブログランキング・人気ブログランキングへ [2]
にほんブログ村 科学ブログへ [3]
[4]


ありがとうございます それでは、反証事例の続きです。。。

①については、異系マウス胎盤組織を妊娠もしくは非妊娠マウス皮膚に移植すると、同じように拒絶されるという実験から否定できる。

②については、同種異個体組織を子宮内に移植しても短時間で拒絶されることから否定できる。

③については、母体の免疫機能は細胞性免疫は確かにある程度は低下するが、同種移植を可能にするものではなく、(もしそれほどの低下があれば、多くのウイルス感染で妊娠母体は落命しなければならない)

④についてのみ、ある程度正しいことがわかってきましたが、単純な機械的なバリアではなく、母体の免疫細胞を多量に含有する脱落膜と接触し、積極的に母体免疫系に認識されること によって、生着すると考えられるに至っています。



④について、補足を加えると、哺乳類胎盤、脱落膜局所では、多数のサイトカインが発現していることがわかっているとのことです
さらに、遺伝子欠損(ノックアウト)マウスでの研究によると、ある種類のサイトカインが欠損している場合は、以下のような障害が起こることがわかっています

・LIFノックアウトマウス・・・受精卵の着床障害
・HGFノックアウトマウス・・・胎児胎盤の成長に著しい障害
・他のサイトカイン(IL-2,IL-4,IL-10,IFN-γ) ノックアウトマウス・・・なんら支障なく子マウスが生まれてくる。


免疫寛容に胎盤がなんらかのかたちで関与しているということがわかりましたね~

■胎盤の獲得と免疫機能の関係
胎盤が哺乳類特有の獲得臓器かというと実はそんなことはありません 😉 (ハサミムシや魚類のサメなども胎盤様を持っている)
さらに、胎盤とも関係が深い胎生も哺乳類特有かというとそんなことはありません 😉

生物がもともとの生殖様式である卵生から胎生へと舵をきる背景には、生物進化の普遍構造でもある逆境(外圧変化)⇒可能性収束があったと考えられます

図解にしてみるとこんな感じです

何らかの逆境 ⇒ 卵生から胎生への移行 
    ↓        ↑↑    
種の保存▽  ⇒ どうする?


何らかの逆境に関しては、主に自然圧力(寒冷化)と種間闘争圧力上昇が考えられます

※先ほど出てきた、無脊椎動物でも胎生のハサミムシには、母体内で発育する幼虫と母虫の間に胎盤様の組織が認められています。ただし、昆虫などの無脊椎動物は、B細胞(抗体産生)やT細胞(細胞障害性T細胞の誘導)が発達していないので、胎児が免疫学的拒絶をうけることはないらしいのです。

しかし、リンパ系の発達した脊椎動物(主に哺乳類)の場合、胎生を行うことで様々な逆境に適応できたのと同時に、母体において移植免疫学的には本来異物である胎児をいかに母体免疫系(リンパ系)の攻撃から防御するかという課題が発生したと考えられます 😈
図解にしてみるとこんな感じです

【脊椎動物(主に哺乳類)の場合】

何らかの逆境 ⇒ 卵生から胎生への移行 ⇒ 免疫寛容
     ↓      ↑↑     ↓         ↑↑
種の保存▽ ⇒ どうする? 免疫機能が壁 ⇒ どうする?



●ポイント1
人を始めとする哺乳類の大部分が胎生(母親の胎内から胎児が発育し、母体外である程度生活可能になってから生まれる)の生殖様式をとるため、進化の過程のかなり後になって獲得したものであるという誤解もありますが、系統発生的には決して哺乳類に特有のものではないということ。

●ポイント2
大きく生物進化の流れを辿っていくと、免疫機能の獲得もDNA進化(変異メカニズム)の副産物として登場しました。
免疫寛容も同様に、DNA進化(変異メカニズム)の副産物と言えるのではないでしょうか?


改めて、生物進化の大原則に立ち戻れば、生物が新しい機能や形態を獲得していく為には、全く新しいシステムを発明する必要はなく、予め存在する遺伝子を組み換えたり、他の調節系を利用することで適応していきます。
恐らく、哺乳類の胎生とそれに関与するサイトカインやホルモン調節の進化も、基本構造は哺乳類以前(無脊椎動物、魚類など)の時期に獲得していたと考える方が論理が整合しそうです

最後に、胎児側の免疫機能について扱います
ネットや本を調べてみたところ、どうやら胎児側にも免疫機能は存在していますが、発現力は弱いようです
恐らく、胎児側の免疫システムが高度に発現してしまうと、胎児が母体を攻撃する危険があるので、胎児の免疫システムは、原基構造だけを作り込み、具体的な発現は、胎盤から離れる出生後となると考えられそうです。

<参考:『生殖免疫の話』 早川智・佐藤和雄著 株)診断と治療社発行 1999年2月>

具体的な仕組みについては、今後の追求課題にしていきたいと想います
以上、やっさんがお送りしました

[5] [6] [7]