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着床を助ける免疫細胞

精子の長い旅 [1]受精のしくみ [2]とエントリーが続いていますので、今日は、受精卵の着床と免疫機能の関係について書いてみたいと思います
母体にとって胎児は異物でもあるわけですが、免疫的な拒絶反応をのがれています。そのしくみはどうなっているのか

特に着床において・・・・
※まずは、こちらの図をごらんください→http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textlife/mamdev.jpg [3] 
生命科学C [4] 個体の発生と分化Ⅱ – 発生と分化のしくみ [5] より)

着床の過程は、 こんな感じです 😮
受精卵が母体の子宮内膜の表面細胞を溶かして、もぐりこんで行きます。そして、受精卵の絨毛はどんどん子宮内膜の奥に入っていって、母体の血管から胎児の発育に必要な栄養や酸素を受け取るようになるのですが・・・
受精卵は、母体側の免疫細胞に攻撃されることはないの

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ところが、子宮内膜周辺の免疫機能は、特殊な状態になっています。

子宮内膜には各種の免疫細胞が分布していますが、その中で、着床期以降、「大顆粒リンパ球」が急に増加し始めることが分かっています。長年、この細胞は間質細胞由来のものと考えられていましたが、近年の分析から、免疫細胞であるナチュラルキラー細胞の一種であることが判明しているようです 🙄
(細胞質内顆粒中にパーフォリンなどの殺細胞物質を含み、NK細胞としての活性を有し、また各種のサイトカインを分泌している)

これが子宮NK細胞と呼ばれている細胞です。
この細胞は排卵後に増殖しはじめ、子宮内膜間質の30%以上を占めるようになり、子宮内膜間質が脱落膜化するとNK細胞は移動し、やがて着床部位に集まります。結果、母児の接点である子宮脱落膜の免疫担当細胞のうち約70%がNK細胞となっているようです。(妊娠中期~後期には減少する)

NK細胞といえば・・・生まれついての殺し屋。体内をパトロールして、ガン細胞やウイルス感染細胞を見つけると、単独で直接殺す・・・
それが着床時に増える? 何のため? 受精卵は攻撃されないの? 大丈夫? と疑問がわいてきますが、子宮NK細胞と、通常のNK細胞(末梢血NK細胞)とは種類が異なります。

この細胞は、絨毛細胞に対しては細胞障害活性を示さない→殺すことはないことが証明されています。そのメカニズムは、絨毛外絨毛細胞にはHLAクラスⅠ,Ⅱ抗原が存在せず、HLA-G抗原が表出されており、これがNK細胞の抑制レセプターに認識され攻撃を回避しています。

じゃあ、子宮NK細胞は何をしているのか?
この子宮NK細胞は、絨毛・胎児を拒絶することなく外敵から守るだけでなく、実は、着床→妊娠維持を助けている可能性が高いことがわかっています

具体的には、絨毛細胞の増殖に必要なサイトカインを分泌しているようです。また、一方ではそのNK活性によって絨毛細胞の子宮内への浸潤を制御しているとも推測されています。
逆に、習慣的に流産してしまう人の場合で、妊娠前時の子宮内膜で、子宮NK細胞が減少し、細胞障害性の強いNK細胞が増加しているケースも報告されています。

(さらに、子宮NK細胞が胎盤の栄養膜細胞と相互作用し、栄養膜細胞は、子宮のらせん動脈を血流量の多い血管に変え、胎盤と胎児への血液供給を確実にするという報告もある→※参考:http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/346288.html [9]

この子宮NK細胞はほんとうにNK細胞の一種なの? 別物? 変異種? といった疑問はつきないのですが、どうやら、生殖免疫系は、胎児を攻撃しないメカニズムを持つだけでなく、着床の制御にも重要な役割を果たしている可能性は高いといえます

※参考文献 
子宮内膜の周期性変化と月経(pdf) [10]  
不育症の病態解明と治療の展望 免疫機構の視点から(pdf) [11] 
免疫からみた病態 着床・胎児発育の障害と免疫(pdf) [12]  
日本産科婦人科学会Webページ [13] より)
子宮内膜症における子宮内膜NK 細胞亜分画の変動(pdf) [14] 

[15] [16] [17]