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昆虫~複眼の不思議

今回も前回に続いて昆虫の微小脳を紹介してみたい。
「昆虫―驚異の微小脳」からの紹介です。
前回は昆虫と人を生物界の2つの頂点として紹介しましたが、具体的に見ていくことでますますその事が判ってきます。今回は眼のしくみを見ていきます。
昆虫の目と人類の目は根本的に構造が異なります。人類を頂点とする脊椎動物の目をレンズ眼とすれば昆虫のそれは複眼と呼ばれ光を集光する光ファイバーのようなものなのです。
なぜ昆虫は複眼をもつことができたのか?そもそも複眼ってなんなんだろうか?人類と昆虫の戦略の違いは?どちらが生命体として優れているのか?ここに迫ってみます。
以下、著書から抜粋してみます。書き出しが面白いです!)
眼は心の窓という。まずは昆虫の視覚のしくみについて述べ、昆虫の小さな脳の入り口としたい。地上のすべてのものは、太陽から降り注ぐ光にあまねくさらされている。光はまわりの様子を探るのにとりわけ有用な媒体である。動物は明るさの空間的な分布やその時間的な変化を手がかりにして捕食者や餌や交尾の相手を発見するために、さまざまなタイプの眼を進化させてきた。その傑作のひとつが昆虫の複眼である。
⇒昆虫は複眼を獲得することで細かい動きやアクロバティックな運動を実現しただけでなく、360度の視覚を獲得したのです。
複眼とは・・・
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まずはウィキペディアから紹介します。

それぞれにレンズを持つ個眼が蜂の巣のように集合した器官
集合する個眼の数は昆虫、なかでも飛翔するものが多いようで、イエバエ2000個、ホタルのオス2500個、トンボ2万個前後となっている。
個眼は六角形や五角形、円形をしており、隙間なく並ぶ。個眼の大きさは複眼の場所によって異なる。個眼は、複眼表面部分に透明なキチンの角膜または角膜小体があり、その奥にこの角膜を分泌する角膜生成層とガラス体の細胞、ガラス体または円錐晶体、それに8個ほどの視細胞または感光層がある。視細胞の内側の端は神経繊維となり、それが集合して視神経になって脳の視葉という部分に達する。おおざっぱに言えば複眼を構成する個眼は、望遠鏡のような構造である。筒の先端にレンズがあり、反対側から覗くわけである。
ただし、視覚細胞は筒の中に入っている。このようなものが大量に並んで、全体として複眼を構成している。

以下、「昆虫―驚異の微小脳」に戻ります。
複眼の構造は私達ヒトの眼とは全く異なる。
ヒトの眼は1枚のレンズ(水晶体)と、その背後にある多くの光受容体細胞がぎっしりと並んだ網膜からなるレンズ眼である。これはカメラの構造に似ている事からカメラ眼とも呼ばれる。一方、昆虫の複眼は多数の六角形の個眼がすきまなく並んだものである。各個眼には小さなレンズがあって光を収束させ、光受容体がつくる光感受部位に届ける。
複眼とレンズ眼、この2つの眼はどのようにして進化してきたのでしょうか?
>脊椎動物のレンズ眼はオウムガイなどが持つピンホール眼から進化してきたと言われています。オウムガイには眼はありませんが、ピンホールカメラのように小さな採光窓のうしろが空洞になっており、そこに受容細胞が並んでいて網膜層をつくる。このようなピンホール眼に一枚のレンズを加えて集光効率を上げたものがレンズ眼となったと考えたのである。
一方、昆虫などの節足動物の複眼はゴカイなどの環状動物がもつレンズをもたない眼から進化したと考えた。ゴカイの眼は色素細胞を備えた管の集合体であり、隣接する管の色素細胞はそれぞれ隣接する方向からの光を受ける。このような眼のそれぞれの管にレンズが加わったのが複眼の起源である。動物の進化の非常に古い時期にはさまざまなタイプの眼を作る試みがなされ、その一つが昆虫の複眼に、もう一つが脊椎動物のレンズ眼に繋がったのであろう。
さて、この複眼が見ている世界とはどのようなものでしょうか?
次に、レンズ眼を持つヒトと比較した複眼の視力を見ていきます。

複眼は実は極めて粗いものしか見えていない。
昆虫の中でも最も多い5万の単眼を持つトンボですらデジタルカメラの500万画素に比べると1/100である。ヒトの場合1000万画素に相当する。
また複眼をヒトの視力に例えると視力にして0.01~0.02と2桁も悪い。
もしヒトの眼と同じ解像度をトンボが持つには眼の大きさは直径1mに達する。
→眼の解像度の点では進化の失敗作と言えるかもしれない。
複眼は視野の広さを獲得した。
レンズ眼は1枚のレンズからなるので視野に限界があり、最高でも180度しか見ることが出来ない。しかし複眼の特徴は個眼の数を増やせばいくらでも広い視野を獲得する事が出来る。実際トンボの複眼は360度カバーしており、獲物の獲得や捕獲者からの逃避に大いに機能を果たしている。
高い時間分解能
ハエやハチの複眼は時間分解能が高いという特徴を持つ。
時間分解能は1秒間に何回の明暗変化を見分けることができるかで評価され、これを「ちらつき融合頻度」と呼ぶ。ちらつき融合頻度はカタツムリでは4ヘルツ(1秒間に4回)ヒトでは15ヘルツ~60ヘルツ、ハエで150ヘルツである。カタツムリの眼の前に1本の棒を見せ、1秒間に5回棒を出し入れすると、それを静止しているものとの区別ができず、棒の上に乗ろうとする。これをヒトとハエで例えるとヒトが映画のコマや照明のチラツキが感じ取れないのをハエは感じ取れるという事である。
時間分解能は同時に時間間隔が異なる事を表しており、短命なハエの一生も意外と長生きしているといえるのかもしれない。
また、高い時間分解能を獲得したハエは高速アクロバット飛行という運動能力に大いに連関していると考えられている。
紫外線を見分ける昆虫
多くの花の中心部には紫外線を吸収する領域がある。花との共存を行う昆虫はこの紫外線を視覚する能力を備えている。ミツバチを初め多くの昆虫は紫外線、青、緑に感度の高い視細胞を持ち、この3原色が色覚の基本と成っている。昆虫の感じる波長はヒトに比べると赤がないぶん短波長に波長域がずれている。しかしこれは花の紫外線領域に移動したと考えられるのである。
最後に神経解剖学者の言葉を紹介したい。
神経解剖学の先駆者ラモニ・カハールはさまざまな動物の神経系を観察したが、その中でも鳥類や高等な哺乳類の網膜が生命が作り上げた最も繊細な構造物であると考えていた。しかし晩年、微細な昆虫の感覚系に高度で精巧な構造が秘められているのを知ったとき、驚嘆の言葉を残したという。
「昆虫の網膜の複雑さはなにやら途方もないもので、人を面食らわせ、他の動物に先例がない。生物の中で見かけは取るに足らないハチ、チョウ、カゲロウの網膜に比べれば、鳥類や哺乳類の網膜などは粗末で、哀れなほど初歩的に見える。一方を粗末な壁掛け時計、他方を精巧な小型でふたつきの懐中時計にたとえられたとしても、適切な比較とは言えない」
昆虫の微小脳を小さなスペースに多くの機能を整然と詰め込んだ「集積回路」であると銘打つ著者の絶好の紹介記事である。

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この後、著書にはミツバチの視覚研究を詳報されており、それによると対象の区別や色や形の記憶、錯覚を引き起こす図形までヒトと同じような特徴を昆虫の微小脳や複眼が有している事も示している。
生物の機能とは環境適応の裏返しでもある。昆虫とヒトが現在でも絶滅せずに共存しているという事は同じ環境に対してそれぞれの戦略で適応しているということである。眼はまさに現実を対象化しているともいえる。昆虫と人類、複眼とレンズ眼という全く異なる各々は以外にも同じように世界が見えているのかもしれない。

by tano

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