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ホヤにみる性進化と免疫進化の関連

免疫進化はとりわけ脊椎動物段階で爆発的な進化を遂げる訳ですが、その前駆形態を考える上で、注目されるのが脊索動物の起点とされるホヤです。
ホヤの特徴は雌雄同体でありながら自家受精を防ぐ仕組みを持っているという点にあります。


われわれ哺乳類と同じ脊索門に属するホヤ類は海に住む固着性の動物で、そのほとんどは雌雄同体です。マボヤやカタユウレイボヤでは、繁殖期になると同一個体が卵と精子の両方を同時に海水中へ放出しますが、同一個体由来の両配偶子は受精しないという現象が知られています。これを自家不和合性と呼んでいてい、この現象が有性生殖における受精の目的である「同種異個体の遺伝子を混ぜ合わせ、子孫の遺伝的多様性を生み出す」ことを保障してます。これらのホヤでは同種異個体由来の配偶子どうしならば、ほとんど全て受精することから、配偶子が同種異個体を厳密に識別できる能力をもっていると考えられています。われわれも含めて脊椎動物は高度な細胞性免疫機構をもっていて、臓器移植における絶に見られるように同種異個体を識別することができます。進化的な位置を考えると、ホヤにおける同種異個体の識別機構が脊椎動物における細胞性免疫機構の起源となっている可能性は十分考えられます。
http://www.biological-j.net/blog/2007/12/000348.html [1]
成る程、多様性を獲得するために「同類であっても自分とは違うものを求める」という性の原理が、自分と同じかそうでないかという個別認識機能を必要とし、それが更なる免疫進化を生み出したというわけですね
同様の視点がときどきこのブログでも引用させてもらっていますHP「生命と進化」にも書かれていました。
拒絶反応は移植細胞表面に存在する非自己抗原に対する免疫反応だが、この抗原となるのが組織適合性分子という細胞表面タンパクで、その中で最も重要なのが高等脊椎動物の細胞で発現する、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子群にコードされたMHCファミリータンパクである。つまり、MHC分子によって自己と非自己とを区別しているわけで、MHCが一致すれば拒絶反応は起きないのである。・・生命は、自らの体内に侵入して来る異物に対しては、かたくなにこれを拒絶するが、性に於いては逆に自分とは異なるものを進んで受け入れようとするのである 。また、生殖の相手として自分とは異なるものを求めるという行動は、哺乳類でも観察されている。・・これは考えて見れば当り前の事で、性が遺伝的多様性を拡大する為のシステムだとするならば、遺伝的に同じもの同士が結びついても意味がないからである。
http://green-forest.hp.infoseek.co.jp/seimei-3.htm [2]
しかしMHCを持たないホヤはどのようにして、同種異個体を認識しているのか。鍵を握っているのは「補体」であるようだ。
補体系は、高等脊椎動物において感染初期の生体防御に重要な役割を果たしている自然免疫システムである。近年、補体分子がウニやホヤなどの無脊椎動物にも存在することが明らかになり、その進化系統学的意義が注目されている。一方、さまざまな補体制御因子が精子表面に存在していることが哺乳類で知られており、補体系と受精の関連が指摘されている。体内受精時に雌の免疫系による精子への攻撃を回避する働きがあると考えられているが、真の生理学的意義や分子機能はほとんど明らかにされていない。
 尾索動物であるホヤには、獲得免疫系は存在しないが自然免疫系は存在し、さまざまな補体因子を有している。カタユウレイボヤの精子細胞膜に、補体系因子の一つであるC6と相同性を示す分子が存在することが示唆された。この分子の研究により、体外受精における補体系の関与について何らかの知見が得られることが期待されると同時に、免疫系と生殖系の進化系統学的な関連性を知る上でも重要であると考えられる。

http://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol5No1/TJB200601200200786.html [3]
一般的に補体は貪食細胞の促進や抗原の細胞膜に孔を空ける(細胞障害)などの機能を持っている、免疫細胞です。ホヤの生殖細胞における補体の振る舞いが分かれば、性進化と免疫進化をつなぐことができるかもしれません。

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