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ヒドラ・その神経系の秘密【その2】

 散在神経系のヒドラが中枢神経に対応する能力を持つ、と前回の記事で書きました。
今回記事では、そうした能力を持つ部位を特定していきます。
高等動物の場合、神経細胞は早期に分化しその回路を維持するために動物の寿命と同じだけ生存します。しかし、ヒドラでは、神経細胞といえども常に分化を繰り返している。また、脳や脊髄のように神経細胞が集中した部位もなく、神経細胞の特殊化も進んでいません。
ところが、ヒドラの中でも足長ヒドラでは、口丘(口にあたる)のまわりに「神経環」とよばれる環状の神経束がみつかりました。(下図参照)
 
hydra_03.jpg
 
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この「神経環」は、(1)原始的ながら神経細胞の集中がみられること、(2)神経細胞の発生動態が高等動物に近いこと(移動がなく、神経細胞の分化が他に較べて非常に遅い)、(3)口あるいは食道をとりまく神経構造である、という三点の特徴を持ちますが、こうした特徴は中枢神経系が持つものです。(ヒトデや線虫の中枢神経である神経環も口や食道をとりまいている)
なお、普通ヒドラの場合、グルタチオンという物質の化学刺激に対して、触手球形成という反応を示しますが、神経環を持つ足長ヒドラの場合は、その代わりに触手をそろえて上下させる「クランプリング」という反応を示し、この神経環を破壊すると「クランプリング」しなくなります。(下図)
 
hydra_04.jpg
 
一方、中枢神経系を持つといわれるクラゲの場合は、二本の神経環を持ち、一本はすべての触手を同時に動かす反応に関与し、もう一本は眼点の神経節をつないで他の感覚入力との情報統合をしていると考えられています。
こうしたことから、散在神経系を持つと考えられていたヒドラ(の一部)の神経環は原始的な中枢神経の可能性が高い。また、ヒドラやヒトデ、あるいは線虫の神経環の構造から、中枢神経は口あるいは食道をとりまく神経束から進化した可能性が高いということになります。
 
 
※引用は、画像を含め「神経系の多様性:その起源と進化」(社団法人日本動物学会監修・培風館)によりました。
 
 

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