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虫を知ってヒトを知る。~微小脳と巨大脳~

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虫を知ってヒトを知る
ヒトの脳は成人で約1400kg、しわを伸ばすと表面積は2500cm3、新聞紙をひろげた大きさになります。ニューロンの数も1000億。一方、虫、たとえばバッタの脳は幅2mmたらずで、容積にして約6mm3、ニューロンの数は約40万です。まさに、微小脳と巨大脳。
しかし、巨大脳は微小脳の進化したものではありません。というのも、動物は進化系統上、旧口動物と新口動物は5億年前から6億年前に分化しており、その両雄(トップ)に君臨するのが虫と哺乳類なのです。つまり、それぞれ独自の道をあゆんで出来上がったもので、デザインのコンセプトが違っているということです。
昆虫を代表とする微小脳の情報処理システムは速い、けど粗い。脳とそれぞれの神経節がある程度の独立性をもった並列的な情報システムとなっています。一方、ヒトを代表とする巨大脳の情報処理システムは、大容量の大脳を頂点とする階層的なシステムで、しかも大脳にはたくさんの並列的な情報処理システムが配置され、同時に複数のシステムで情報を精密に処理・統合することができるシステムです。
もう少し詳しくみてみましょう。
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ニューロンの軸索を電気信号が伝わっていく仕組みや、シナプスの構造、シナプスでの信号伝達の仕組みは、ヒトの脳も昆虫の脳も基本的に同じです。神経伝達物質もアセチルコリン、γ-アミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸、ヒスタミン、セロトニン、ドーパミンなどヒトと昆虫では共通する物質が使われています。
ヒトの大脳皮質は、領域によって違いがありますが基本的には6層構造になっています。そして、皮質の層構造を縦に貫く方向に柱状の単位構造があり、これがモザイク状にぎっしり敷き詰められています。この単位構造はカラムと呼ばれ、ひとつのカラムは約2000から1万5000個のニューロンからできています。
カラムでは、ほかの領域から入力するニューロンとほかの領域に投射する出力ニューロン、さらに両者を連絡する介在ニューロンがセットになっていて、ニューロンの樹状突起と軸索末端のシナプス結合がいくつも組み合わさった神経回路からできています。こうしたカラムの神経回路は、特定の情報の処理や、記憶の保持のための「機能的な単位」、つまり機能モジュールとして働いています。カラムの数が多ければ多いほど、きめ細やかな情報処理が可能になります。マウスとサルで認知能力が違うのはカラムの数が違うからということができます。
一方、昆虫の脳では、単一のニューロンが機能モジュールとして働いている例が多くみられます。したがって、ヒトの脳と昆虫の脳の情報処理の精密さや処理速度の差は、機能モジュールがニューロンの集団か、単一のニューロンかという違いによるといえるでしょう。
昆虫の脳とヒトの脳ではニューロンの数に歴然とした違いがあります。これが、情報処理にあたる機能モジュールのサイズの違いとなり、情報処理の精密さや速さの差となっています。ニューロンの数が多いヒトの脳では、感覚情報を連合野に送るまでに何段階にもわたって処理されますが、昆虫の脳では2~4段階の処理で中枢に伝えられます。昆虫の脳はヒトの脳に比べ、とても少ない階層からできています。ニューロンの違いはまた、記憶容量にも反映されます。
昆虫は少ない数のニューロンをどのように組み立てて生きる戦略を生み出しているのか?いろいろな昆虫の脳を比較研究して、微小脳に共通する基本原理を明らかにし、さらに微小脳での基本原理が微小脳に固有のものなのか、あるいは巨大脳にもあてはまるものなのかを検討することは巨大脳の理解を深めることにもなります。
進化的にヒトと対極的な位置にある昆虫の脳を研究し理解することは、ひいてはヒトを理解することにつながると思います。
だから、
「虫を知ってヒトを知る」。
うらら
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参考文献
山口恒夫監修「昆虫はスーパー脳」

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