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「変異」を追及した抗体

こんにちわ。arinco 😉 です。本日は、継続して調べております「免疫」シリーズです。
 今回は体の中に侵入したウイルスをやっつけてくれる抗体についてです。僕らの体内ではウイルスに合わせて様々な抗体を作りだします。
あの多様性はどこから来るのか?それを追求してみました。
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□抗体ってなに?
 まずは、そもそも抗体って何?という所からデス。
抗体とは、リンパ球のうちB細胞の産生する糖タンパク分子です。要は、タンパク質ですな。
主に血液中や体液中に存在していますが、体内に侵入してきた細菌・ウイルスなどの微生物や、微生物に感染した細胞を抗原として認識して結合します。そしてこの結合がサインとなって、マクロファージやT細胞等、他の免疫細胞がウイルスをやっつけにきます。
 抗原(ウイルス)と抗体は基本的には一対一対応です。抗原は多種多様ですので、必然的に多種多様の抗体を作り出す必要がある。というわけです。
□抗体の構造
 続いて抗体の構造の説明です。抗体は図1の様なYの字型をしており、H鎖、Lk鎖、Lλ鎖と呼ばれる塊に分かれている。HはヘビーのH。LはライトのLですな。要するに遺伝子コードが多いのがH。少ないのがLというわけですな。これらは、それぞれ、定常部分と可変部分に分かれており、定常部をC遺伝子と呼びます。可変部はV(可変)ドメインD(多様)ドメイン(H鎖のみ) 、J(結合)ドメイン、が存在します。
※ドメイン=領域 DNA中の遺伝子の断片。
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図1 抗体の構造(サイエンティスト・ライブラリー [4]さんからお借りしました)
□多様性を作り出す4段階システム
 それでは、本題の抗体が多様性を作り出すシステムです。
としては、多様性を作り出すシステムは4段階存在します。
①DNA組み換え
②遺伝子断片同士の結合部のあいまいさ
③組み合わせによる多様性
④成熟B細胞内における体細胞高頻度突然変異
の4段階です。それぞれ興味をそそります?が一つずつ見ていきたいと思います。
□多様性の仕組み
①遺伝子組み換え
 DNA組み換えは、抗体の多様性を生み出す上で原点になっています。つまり最も重要!
 固定的だと思われがちなDNAですが、抗体を作り出すB細胞においては全くもってそんな事はありません。
 生殖細胞から抗体が出来るまでの順序はこのようになっています。
 生殖細胞→生殖細胞系列に分化→DNA組み換え→RNAに転写する際、スプライシングによりイントロン除去→翻訳により抗体(タンパク質)を合成
 ※スプライシングとは?
 DNAからRNAに転写する際、イントロンと呼ばれるタンパク質を合成する為に必要のない領域を取り 除かれる過程。タンパク質をコードしている領域をエキソンと呼ぶ。
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図2 スプライシング(藤塾ネット [5]さによりお借りしました)
 細胞が未熟状態ではDNAに含まれる遺伝子コードV,D,Jがそれぞれ遺伝子断片として離れ離れになっています。ところが細胞の分化が進むにつれ、外圧状況に合わせてDNA組み換えが起こり、DNA内のV、J、(D)遺伝子断片が結合し、完全な遺伝子コード=エキソンとなるのです。
 つまりDNA配列が変わってしまうのです!
 これは、DNAは設計図=容易に変わらないという一般のイメージを打ち破るシステムです。
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図3DNAの組み換え(生命科学C [6]さんよりお借りしました)
 さてDNAの組み換えは、RAG-1、RAG-2と呼ばれる組み換え活性化遺伝子(recombination-acti-vating gene)が触媒となって行われます。
この組替え機構は、レトロウイルスのインテグラーゼやトランスポゾン(動く遺伝子)が用いる転位機構と、多くの点で共通点が見られます
・レトロウイルスのインテグラーゼ=レトロウイルスのDNAをゲノムに挿入する反応を触媒
・トランスポゾン=トランスポーゼ(酵素タンパク)をコードした可動性の遺伝因子。トランスポーゼを用い  て、自身をゲノムから切り離したり組み込んだりする事が出来る。
・RAG複合体はトランスポーゼとして働き得る事も分かっている。つまり、トランスポーゼの機能が脊椎動物になってV遺伝子断片の組み換えに用いられる様になったのです。実は、このトランスポゾン。動く遺伝子とも言うのですが、これも元々ウイルスで、共生の結果、動く遺伝子として働くことになったという説もあります。動く遺伝子も興味深いのですが、それはまたの機会に。
②結合部のあいまいさ
 2段階目は結合部のあいまいさです。これは単純でDNA組み換えの際にV遺伝子断片とJ遺伝子断片が結合するわけですが、この結合位置がふらふらしているのです。このあいまいさも多様性を生み出す一つとなっている。というわけです。
③組み合わせの多様性
3段階目はV,D,Jの組み合わせによる多様性の創出です。
 VドメインはH鎖に65個、Lk鎖に40個、Lλ鎖に30個。
 DドメインはH鎖に7個。
 Jドメインは、それぞれ5個前後 存在しています。
それぞれが組み合わさる事で多様性が生まれる。というわけですねー。
 
 敢えて分断しておく事で一つにまとめておくよりも少ない数で圧倒的な多様性を生み出す事が出来る。そして、それを実現する為には、DNAの組替えが必要だったので、元々あったトランスポーゼの仕組みを応用した。という事なのですね。
さらに結合時に、ヌクレオチド(塩基)の添加や削除も行っているのです。 :blush: これで組み合せに更なる多様性を生み出します。元々、抗体の構造には3つの超可変部が存在するのですが、2つは、V遺伝子断片DNAにコードされています。最後の1つが、V遺伝子断面とD遺伝子断面の結合部なのですが、この超過部がDNA組み換えの際に、ヌクレオチドが添加・削除される事で変化するのです。
④成熟B細胞内における体細胞高頻度突然変異
 最後の4段階目は、なんと「突然変異」です。突然変異と言えば減数分裂を獲得していなかった単細胞生物が行っていた変異手段ですが、B細胞でも行っているのです。しかも「高頻度」。またしても応用ですね。
 この突然変異は成熟したB細胞内のH鎖、L鎖における可変遺伝子内にのみで起こります。B細胞表面に突然変異を受けた抗体が発現するのです。
 このようにDNA組み換えから突然変異まで抗体は、ありとあらゆる「変異」システムを応用しているという事が分かります。免疫の中でも変異の最先端!を走っているのではないでしょうか。
 そして、このような変異可能なシステムという担保があったからこそ、より複雑なシステムを持った生物への進化が可能だったのだと思います。

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