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「見る」とは意識だろうか?

人間の行動のなかでどこまでまでが意識で、どこまでが意識でないか。例えば、「見る」という行為はどうだろうか?
以下 池谷裕二「進化しすぎた脳:第二章人間は脳の解釈から逃れられない」の前半部分を要約
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同じ長さの線を紙に書いたとしても、背景やその位置によって、長短の差があるようにみえることがある。2本の棒の長さは網膜上では同じだけど、BがAより長いような気がする。「気がする」というのはまさに脳の解釈、脳が実際の長さを勝手に想像して補正しようとするから、錯覚が生まれる。これは意識ではコントロールしようがない。
なんで錯覚が生まれるのか?
世の中は三次元なのに、網膜は二次元だから目の前にある「もの」が三次元の光情報として目に入ってきても、目のレンズを通して網膜に映されると、二次元に次元が減ってしまう。脳が感知できるのは写真と同じ薄っぺらい写像でしかない。それを何とか脳ががんばって三次元に解釈しないといけない。そこに錯覚が生まれる。
脳の活動を詳しくみていくと、スクリーン上で正方形と長方形を瞬時に切り替えたときと、実際にスーッと正方形から長方形へとなめらかに変化させたときと、脳が同じ活動していることがわかった。外の世界がどうであろうとも、脳がそう活動したら、もうそれ以外の何ものでもない。
この錯覚の場合はどういうことが起こったかというと、はじめ正方形があって、次に長方形に瞬間的に置き換わると、たぶん脳は「あれ?おかしいな」と想う。なぜなら物の形が急にかわるのは現実の世界ではありえないから。そういう状況に脳が立ち至ると、「これはきっと正方形が長方形に伸びて徐々に変化したに違いない」と脳が勝手に解釈するわけだ。その結果、正方形が「伸びた」という状況がつくられる。
これをうまく利用したのが、アニメやパラパラ漫画。本当はコマ送りで動いているんだけど、人間の脳は、その中間の時間を補うので、スムーズに動いているように見える。

(つづく)


では、目はものを見るためにあるのか?

生物に目という臓器ができて、そして、進化の過程で人間のこの目ができあがって、そして宇宙空間にびゅんびゅんと飛んでいる光子(フォトン)をその目で受け取り、その情報を解析して認識できて、そして解釈できるようになって、はじめて世界がうまれたんじゃないか?つまり、世界があって、それを見るために目を発達させたんじゃなくて、目ができたから世界が世界としてはじめて意味をもったということ。
光というものはもともと三原色に分けられるという性質のものではない。網膜に三色に対応する細胞がたまたまあったから、人間にとっての三原色が赤・緑・青になっただけのこと。もし赤外線に対応する色細胞も持っていたら、光は三原色でなくなる。
つまり、赤・緑・青という電磁波のおよそ、555nm、530nm、426nmという波長の三色しか見えないから、世界がこういうふうにしか見えていない。その意味で、世界を脳が見ているというよりは、脳が(人間に固有な)世界をつくりあげている、といった方が正しい。
目の情報を処理するのはじつは第一次視覚野だけではない。視神経は視床で乗り換えられるその直前で枝分かれして、脳の真ん中へんにある「上丘(じょうきゅう)」という場所にも情報が運ばれる。そこを使って「見て」いる。上丘で見ているものは意識の上には現れない。字が読めるほどは上丘の機能は発達していない。
上丘というのは処理の仕方が原始的で単純だから判断が早くて正確。野球のボールやテニスのサーブなどの剛速球をどうやって打ち返しているのかとプロの選手に聞くと、「何も考えていない。無意識だ」と答える。これは上丘で見て、判断している証拠、上丘がなければ、野球やテニスなんてスポーツは成立しない。
クレヨンを用意して正面を向いてもらったひとの真横で、ある色のついたクレヨンをみせて「今、何色にみえた?」と聞いても視覚の隅にあるものは正解しない。でもおもしろいことに、まず正面に赤のクレヨンをもってきてから、徐々に横にずらして視界の隅の方に持っていくと、赤のままに見える。これはもう「赤だ」って脳が知っているから「赤」の情報を埋め込んでいるということだ。
「見る」という行為も無意識だということがいえる。
人間にある五感のなかで、目の神経線維の本数が一番多い(100万本)。それはひとの五感において目が一番重要だということを表している。人間の行動のなかで意識してやっていることは意外と少ないということではないだろうか?

以上 池谷裕二「進化しすぎた脳:第二章人間は脳の解釈から逃れられない」の前半部分を要約
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うらら

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