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チンパンジーに学ぶ免疫学

風邪を引いたら生姜汁を飲むと治る、というような、その地域独自の言い伝えによって病を克服している事は多いですよね。人類は自然免疫や獲得免疫の進化といった体の仕組みを作り変える事よりも、観念内容を継承し高度化していくことで適応していると言えると思います。
新薬開発もその先端的現れの一つだと思いますが、この分野では動物の行動原理からその糸口が見えてくるケースは多いようです。その中でも特に進化上近縁のチンパンジーには学ぶ事はたくさんあるようですね。
今日は番外編としてチンパンジーの行動を記したニュースを紹介したいと思います。


以下、山陽新聞からのニュースの抜粋です。
http://www.sanyo.oni.co.jp/kikaku/nie/child/20041210.html

チンパンジーの薬草 病気を治すための知恵
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早朝、ツユクサの葉を飲み込むチンパンジー(写真提供・西田利貞=日本モンキーセンター所長)
 ある朝、どこから見ても体調の悪そうな一人のチンパンジーがいた。表情にも動きにもまったく元気がない。その上、ひどい下痢(げり)までしている。しばらくするとそのチンパンジーはだるそうに起きあがり、少し離れたやぶの中に入っていった。そして、ふだんはあまり食べない植物の葉をちぎり、それをゆっくりと口に運んだ。
 ふつうチンパンジーたちが葉を食べるとき、枝や茎(くき)から手でしごき取った葉をまとめて口にほおばり、よくかみしだいてから飲み込む。とくにマメ科植物の若葉は、チンパンジーにとって重要なタンパク源であるため、一度にかなりの量を食べる。しかし、このチンパンジーは少量の葉を一枚ずつ、しかもかまずにゆっくり飲み込んだのである。
 この植物はアスピリアというキク科の植物である。実は、アスピリアには抗生(こうせい)物質(ぶっしつ)が含まれており、少量でも寄生虫(きせいちゅう)や細菌(さいきん)を殺す作用がある。チンパンジーは、アスピリア以外にもツユクサやイチジクなど、十数種におよぶ植物の葉をかまずに飲み込むことが観察されている。
 抗生物質は物理的な刺激、つまり、かむことによって破壊されやすい。また、これらの葉は、いずれも表面に硬い毛が生えている。抗生物質を壊さないため、あるいは葉の硬い毛が病気に対してなんらかの役割を果たしていて、その効果を保つためにあえてかまないのかもしれない。
 ほかにも、チンパンジーが別の植物の樹皮(じゅひ)や樹液(じゅえき)などを利用することが知られているが、それらの中にはアフリカの人たちが腹痛治療(ふくつうちりょう)や寄生虫駆除(くじょ)のための薬として利用しているものも少なくない。また、いくつかの植物からは住血吸虫(じゅうけつきゅうちゅう)やマラリア原虫(げんちゅう)に対抗する成分も検出されている。
 チンパンジーたちが、これらの植物の成分や性質を理解しているかどうかは分からない。しかし、彼らは日々の生活の中で、病気を治す薬用植物(やくようしょくぶつ)を発見し、またその利用法を代々受け継いできたのである。いずれは、彼らの薬用植物から、人間のための新しい製薬(せいやく)が開発される日も近いかもしれない。

実際チンパンジーと身近に暮らしているギニアなどの村では、チンパンジーが食べる薬草や樹液が村人達の民間医療として活用されているようです。「進化の隣人と暮らす」 [1]より
科学技術の発展は人類の叡智の結晶のように思われていますが、原点はやはり自然や動物からその適応の原理を謙虚に学ぶところにあるようですね。そんなひとコマが感じられたニュースでした。

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