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無脊椎動物の免疫系進化

■免疫系の進化
アメーバの食作用から巧妙な免疫を兼ね備えた哺乳類に至るまで、免疫系の進化は“自己対非自己認識”の発展過程を示す、といいます。
そこで、現存種の研究により得た知見に基づき、免疫系の進化を俯瞰したのが、前回の「免疫系の進化系統樹」でありました。多くの進歩は一度獲得すると次の種に継承される(=塗り重ね構造である)ので、最初に現れたと思われる機能がプロットされています。
免疫の進化系統樹 [1]
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免疫機能の進化を紐解くインデックス(1) [2]
免疫機能の進化を紐解くインデックス(2) [3]
免疫機能の進化を紐解くインデックス(3) [4]
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無脊椎動物の免疫系進化
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■自然免疫と獲得免疫(適応免疫)
免疫系は自然免疫と獲得免疫(適応免疫)に大別されます。自然免疫は抗原による前感作を必要とせず、生まれながらに生体に備わっている防御機構です。これに対し獲得免疫は、生体が生後抗原と接触することにより後天的に獲得する免疫状態をいうとされていました。
ところが、自然免疫反応に必須であるリン酸化酵素(IRAK-4)が、T細胞の獲得免疫も制御していることを独立行政法人理化学研究所によって、平成18年に世界で始めて発見されました。(リンク [8]
これまで自然免疫と獲得免疫の信号伝達は全く異なった経路によって機能していると考えられていましたから、獲得免疫反応であるT細胞の活性化でも、IRAK-4が必要であることが初めて明らかになったということです。
高度に発達した獲得免疫系が、進化の過程で、自然免疫の活性化に使われていた有用な分子をそのまま獲得免疫を活性化するためにも利用するようになった、ということですが、「塗り重ね構造」という概念からしてみれば、“当然”という感覚かもしれません。
■単細胞→多細胞
原虫における食作用や細菌における酵素は、単細胞生物における自然免疫機能の典型といえます。群体(コロニー)を形成する海綿細胞は、「特異性」を持った糖蛋白質によって“自己”を確認しているといいます。珊瑚は同一の移植片を受け入れるが、非同一の移植片は拒絶し、一度拒絶すると特異記憶が残るといいますから、“適応免疫”が存在するとみなされています。
多細胞化とは、単細胞における“自己と非自己”の認識機能をベースに細胞の共同体化をはかったということでしょうか?
■蠕虫: 線虫など

線虫の体は成虫の雌雄同体で959個、雄で1031個の体細胞でできており、非常に少ない細胞数ながら、咽頭、腸などの消化器官、体を動かすのに必要な神経や筋肉、体の構造の維持に必要な下皮、配偶子形成に必要な生殖組織など、動物の基本的な構造を全て持っています。(リンク [9]

感染予防は、行動反応、厚い外殻あるいは外皮、種々の抗菌ペプチドや蛋白の産生によって達成されており、体腔の細胞は免疫機能に関与していないらしい。
■軟体動物と節足動物
軟体動物と節足動物は、明らかな移植片拒絶はありませんが、細胞性免疫と液性免疫は存在します。酵素プロフェキナーゼは、毒性をもつ活性酸素およびメラニンを産生し、両者は病原体からの防御にはたらいています。共通する細胞性反応はカプセル化で、侵入した微生物をすばやく血球が取り囲んで外界と途絶して感染を防ぐといいます。
昆虫の免疫反応は、驚くべきほど多くの抗菌ペプチドを産生することによるもので、そのペプチドの産生を開始するために、Toll受容体系とImd経路の2つのシグナル伝達系が使われています。
■原索動物(マメクジウオ、ホヤなど)

原索動物は、系統発生学的に脊椎動物と無脊椎動物との中間に位置する。
・液性防御因子の構造と機能
抗体を持たない無脊椎動物の体液中にはレクチン(糖鎖認識蛋白質)や抗菌性物質などの液性防御因子が存在し、体内に侵入してきた異物を直接無毒化したり、異物の表面に結合して食細胞が認識しやすくする働きをしている。
・細胞性防御反応の解析
分化したT細胞やB細胞は存在しないが、形態の異なる数種類の血球が存在し、傷口での血球凝集、異物に対する旺盛な貪食(食作用)、自己の血球と非自己の血球を識別する反応(接触崩壊反応)、刺激に応じて酵素類を遊離する反応など、様々な防御反応を行っている。(リンク [10]

脊索の背側に神経索をもつ。脳として分化しているとは見なされないが、神経索の先端は脳室と呼ばれ、若干ふくらんでいる。閉鎖血管系をもつが、心臓はもたず、一部の血管が脈動することで血液を循環させている。(リンク [11]

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無脊椎動物においては、適応免疫にかかわる主要成分が全く見つからないそうですが、頭索動物(ナメクジウオなど)や尾索動物(ホヤなど)は、自己複製する造血系細胞、リンパ球様細胞、異種移植片の拒絶を制御する遺伝子群などの進化した特徴を示すことから、脊椎動物以降に体液系の免疫が飛躍的に進化していく萌芽状態にあることがうかがえます。
 by びん

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