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原核生物にみる性の原点~マーギュリス「性とはなにか?」から

前稿に続いて、マーギュリス「性とはなにか?」からです。
性の起源については、真核生物が獲得した減数分裂を出発点として議論されるケースが多いのですが、マーギュリスはさらに原核生物段階にも性の起源があると説く。


>性には非常に古い歴史がある。全ての細菌は膜で区画された核を持たないことから、分類学的には原核生物と呼ばれる。原核生物の性は、動物や植物のもつ生殖に関わる性とは基本的に違ったものである。本当に遺伝子を移すのである。
つまり原核生物同士では遺伝子転移が起こる。これをマーギュリスは『原核生物の性』と呼んでいる。
>細菌は、形質導入、接合、トランスフェクションなど数種類の遺伝子転移、つまり性の営みにふけっている。
細菌は細胞壁や細胞膜がはじけて、遺伝子を放出し、裸のDNAは溶液中を浮遊しているうちに、生きて(他の)細胞に到達するが、これを形質導入という。
また接合とは、細胞同士が接触した際に細胞の間に一つの橋もしくは管が形成され、それを通じて遺伝子が一方の細胞から他方の細胞へ流れこむことをいう。
そしてトランスフェクションとはウィルスを媒体として遺伝子が転移することをいう。
>新しいDNAがわれわれを脅かす場合には、それを病気と呼ぶ。しかし、受容者である細菌は新しいDNAのおかげで、時と場合によっては、より効率よく生きられるようになることもしばしばある。
確かに、形質導入、接合、トランスフェクションを通じて細菌たちは遺伝子の組み換えを行っているわけで、これは一種の『性』であるといえなくもない。ではどのようにしてこの『細菌の性』は進化したのか?実験室での観察結果からマーギュリスは以下のように類推している。
>初期の地球にはオゾン層がなかったので、DNAが太陽光によって傷つけられることは避け難かった。太陽光で破壊されたDNAが選んだ途は、遺伝子修復であった。絶望の中では、自分自身のDNAを修理し、完全にするには、誰か他のDNAを組み込む以外には方法がなかった。・・DNAの組み換え機構として性が始まったのである。
このような、『DNAの修復・組み換えを細菌同士で行う原核動物の性』に続いて、異種間の共生(これをマーギュリスは『ハイパーセックス』または『超性』と呼ぶ)という段階が登場するが、この『超性』を経て『減数分裂と受精』という『現代的な性』が登場する、とマーギュリスはいう。
さて、このマーギュリスの提起する『原核生物における性』という視点だが、確かに細菌同士が行う『DNAの修復・組み換え』を性と呼ぶことで、性の中でももっとも不思議度の高い減数分裂も理解できるようになる。
減数分裂が不思議なのは、どうしてわざわざ二倍体と一倍体を行き来するのか?という点であるが、バックアップの重要性が高いからだ、と理解すれば納得できる。そして、それはオゾン層のない太陽光で破壊されるという苦い経験をDNAが経ているからだと考えればもっと納得できる。そのように考えると、原核生物の時代のDNAの組み換え機構としての『形質導入、接合、トランスフェクション』を性の原点であるとするマーギュリスの考えも、納得できる。
性とは、根源的な営みなのだと、改めて認識!

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