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中心体の起源を探る~マーギュリスの共生説より

11月28日のエントリー「精子と変異(仮設)」でも検討されている「中心体とは何か?」について引き続き掘り下げてみようと思います。
>中心体の主な役割は、細胞分裂(有糸分裂)時に精密な細胞分裂と、染色体を正確に複製するための分裂装置としての機能があります。さらに、鞭毛の動きをコントロールする等、司令塔の役割を担っています。
と28日の記事にもあるように、中心体の、ひとつ目の役割は有糸分裂におけるモーターであり、もうひとつの役割は鞭毛のモーターという点にあります。
ここで、あっと思ったこと・・・・中心体は有糸分裂=複製=保存機能の一翼を担いつつ、他方では鞭毛を動かす=運動=仕事機能をも担っている存在だということです!しかも精子は運動機能を生かして生殖(保存)の一翼を担っている!これは何を意味するのだろうか・・・ということで、調べていたら、「中心体はそもそも原生生物としての運動性バクテリアであるスピロヘータが細胞内共生した名残である」という仰天の学説に出くわしました。この説を唱えているのは共生説を唱えているリン・マーギュリスです。
以下、リンマーギュリス、ドリオン・せーガンの共著「生命とは何か」せりか書房1998年刊より。


まず改めて、中心体の構造を確認しておきます。
>多くの動物では、中心体(電話のダイヤルのような構造)は細胞の端に移動し、軸を成長させてキネトソームになる。横断面を見ると、この軸は「九(二)+二」パターンを示している。九組の軸の端の方に並び、中心に一組の二本の管があるのだ。・・・「九(二)+二」対象性は、例えば私たちの内耳の平衡器官の細胞や、泳ぐ原生生物ミドリムシを前進させる尾に見られる。「九(二)+二」配列は、人間の精子の細胞の断面にもみられる。
念のため、図を添付しておきます。
tyusin.gif
(こちらから拝借しました→http://133.5.28.92/%8D%D7%96E%90%B6%95%A8%8Aw/Cell/%8D%D7%96E%93%E0%8A%ED%8A%AF%81A%94%F7%8D%D7%8D%5C%91%A2/%92%86%90S%91%CC.html) [1]
続いて、この中心体の起源についてです。
>今日、温泉に住むバクテリア、サーモプラズマの非常に古い祖先を考えてみよう。その祖先がスピロヘータの攻撃を受けたところを創造していただきたい。スピロヘータがしっかり付着しても、バクテリアを保護する膜は侵入を防ぐ。スピロヘータは外側に付いたまま結合し、サーモプラズマの老廃物を食物とする。最後に弱ったサーモプラズマにスピロヘータが入り込み、合体してその生きたいわばボートのオールとなったのである。
>いったん内部に入り込むと、スピロヘータ共生体は、その運動性を・・生物の内側の機能にも拡大していった。・・スピロヘータは、とらえられても動いており、最終的には染色体を動かすものとなった。有糸分裂が進化した。付着したスピロヘータは、中心体=キネトソームになった。

中心体の起源が運動能力の高いスピロヘータの波動毛のモーターとして始まったが、体内共生後、それは有糸分裂における染色体をうごかすモーターとなったという訳です。
そしてマーギュリスは、性における中心体の役割についても言及しています。
>中心体=キネトソーム小器官の起源がバクテリアにあることを示す興味ある証拠がある。この細胞内構造には、DNAとRNAの両方が見られるのである。
>動物の細胞は、キネトソームをつくる(中心体から波動毛をつくる)か、それとも有糸分裂をすることができるが、両方はできない。・・しかし、動物はこの遺伝のジレンマへの答えを見つけたように見える。コロニーに固まって集まることによって、いわばケーキを持ちながら食べることもできるのである。細胞は「九(二)+二」小器官をつくった後は分裂できないという制約をコロニーをつくることで乗り越えた。大多数の細胞は分裂する選択肢を残していたが、少数の細胞は・・波動毛を持つようになった。・・・六億年たっても、おとなの動物が生殖する方法は、原生生物が交尾してあらたに原生生物をつくるやり方といっしょである。動物は目に見える生物や意識などの新たな次元を生み出すが、最後には性を通じて太古の単細胞の微生物状態に戻る。

なるほどー。精子とは原生生物そのものだったのか!体内に取り込まれたスピロヘータは、有糸分裂のモーターとして多細胞化を推し進めたが、同時に波動毛付きの原生生物から生物史をやり直すという減数分裂の仕組みをも併用した。しかもDNAよりも柔軟性にとんだRNAを持つ原生生物の状態に帰ることで変異性を生み出そうとしているのではないだろうか。(安定化したDNAワールドの前に可変性の高いRNAワールドがあり、原生生物はたぶんにこのRNAワールドの影響下にあったと考えられる)つまり、原生生物からやり直すことで進化積層体としての生命のサバイバル能力をフル活用しようとした結果が、私たちに受け継がれている永遠の性の構造なのではないだろうか。
マーギュリスのこの学説、現在のところ仮設の域をでていないらしい。(学会ではミトコンドリアと葉緑体の共生説は常識となったが、それ以外の部位の共生説については懐疑的であろうようだ)しかし、論理性合成という点では大いに注目に値するのではないだろうか?

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