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動物の再生細胞と非再生細胞――闘争と死の必然(2)

前回のつづきです。
◆更なる体細胞の機能分化と細胞の再生能力


動物系統の生殖様式も多様であるが、進化の歴史上は、生殖方法を限定する方向へ(無性生殖を放棄して有性生殖オンリーへ)、オスメスの固定度を高める方向へ(雌雄同体から雌雄異体へ、性決定機構の固定化へ)、多様な生殖能を放棄する=限定・特化路線をあゆんできた。
つまり、種の保存に係る生殖過程を(多様な同類他者=小変異体を生み出せる)有性生殖=生殖細胞の合体→減数分裂システムに限定させてきた。そうして、最も負担の大きい生殖過程を分離することによってはじめて、体細胞系列を高度に機能分化させていくことが可能になったとも言える。
【中略】動物は動いてエサをとるしかない。食い合いやエサの取り合いから、摂取機能を進化させる圧力が強く働き、その進化がさらに種間圧力を強化し、身体機能の高度化(=体細胞系列の高度な機能分化)を促進するという外圧(循環)構造にあったと考えられる。
リンク [1]

外圧は、気候などの自然環境外圧に留まらず、種間・個間にも働きます。体細胞の機能分化が高度化すれば、闘争力は増しますので、動物界では体細胞の万能性を犠牲にしても身体機能の高度化をなす種が登場してくるのも頷けます。
一方、繁殖においては無性生殖のほうがはるかに効率的で安全です。有性生殖では、減数分裂による配偶子の形成、受精卵の形成、受精卵から固体発生という一連の複雑な過程を経なければなりません。多大なエネルギーと時間を要するし、高度な機能分化を実現するために様々な細胞間で正確なネットワークを構築しなければなりません。
これらの問題を同時に解決する実現態が、オスメス分化とみてとれます。環境条件の差によって、体躯差は色々ですが、哺乳類においては、生殖負担をメスが担い、生殖域や食の確保・対敵闘争はオスが担うという分化をしています。
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◆死は、なぜ刻印されるのか?
有性生殖は、遺伝子のシャフルをシステム化することで、安定性を確保しつつもわずかな差異を実現するものです。遺伝子の組み換えによって、不都合な遺伝子を持たない配偶子をつくることが確率的に可能であること、に重きを置く別説もあるようです。
いずれにしろ、種の保存という命題を実現するためには、「性」よって獲得した多彩な遺伝子の良し悪しを選別する手段が必須条件になりますが、二倍体生物にとって「性と死」が必要十分条件となった、ということでしょう。
第3群に相当する高等生物のなかでも、ヒトの細胞は、


┏生殖細胞
┗体細胞━┳1)増殖性分裂細胞群(造血幹細胞、表皮基底細胞etc.)
        ┣2)分化性分裂細胞群(骨髄細胞、神経芽細胞、筋芽細胞etc.)
        ┣3)可逆性分裂終了細胞群(肝細胞、平滑筋細胞、リンパ球etc.)
        ┗4)固定性分裂終了細胞群(神経細胞、心筋細胞、赤血球etc.)
・3)普段は分裂増殖しないが、損傷などの刺激を受けると分裂再開できる細胞群。
・4)完全に分裂能力を失った非分裂細胞群。
・1)群と2)群の細胞は、主に3)群と4)群の補給に関わっている細胞群。
●細胞の一生
 1)群の細胞  2)群の細胞  3)群の細胞  4)群の細胞
ex. 造血細胞→→骨髄細胞→→→→→→→→赤血球etc.
   幹細胞→→→◎←←―→→リンパ球
            └→→→→→→→→→→→顆粒球
            ↑
            抗原などの刺激
*出典:「人はどうして老いるのか」p.135-137(田沼靖一著/ちくま新書)より

◆細胞の分裂寿命による細胞死、そして固体の寿命
色々な動物の胎児の線維芽細胞の分裂回数を調べて、それぞれの動物の最大寿命との相関をグラフにすると、直線的な関係が見られるそうです。この相関性は、細胞の分裂寿命が、動物種に固有の寿命の決定に深く関わっていることを示唆している、と思われています。
しかし、ヒトの場合は最大寿命は120歳といわれますので、後天的な要因によって、その分裂寿命を使い果たせずに固体寿命を向かえているのが殆ど、ということでしょう。
[壊死(ネクロ-シス)と自死(アポトーシス)]
壊死は、火傷や打撲など、細胞に突発的に強い刺激が加わることで起こる細胞死で、遺伝子によって制御する間もなく崩壊する細胞の事故死。
自死は、遺伝子によって制御され、エネルギー(ATP)を使ってきちんと死んでいく機能。これは、体内で手足を形成する過程でも起こっているし、私たちの体内で日々起こっていること。リンパ球などの血液細胞、皮膚の細胞、肝臓・胃・腎臓などの臓器の細胞などは、役割を果たして自ら死んでいき、それらの再生系細胞はそれぞれの幹細胞によって補給されます。
[非再生系の細胞死]
脳の神経細胞や心臓の心筋細胞などは、固定性分裂終了細胞群で非再生系の細胞です。ですから、成体には殆ど幹細胞がなくなっているその細胞死は、生命の維持に直結するので「寿死(田沼靖一の造語)」といえるものです。
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●最近、分裂能力を保持している神経細胞が成人の脳にもあることが判明しました。
 記憶や学習を司る海馬の神経細胞のなかに歳をとっても幹細胞があるらしい。
 *これは、実感と符合します。だから、中年以降も脳を鍛える必要がありそう!

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