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動物の再生細胞と非再生細胞――闘争と死の必然(1)

現代の生物学では、現存する多細胞動物を、成体を構成する細胞の分裂(再生)能力によって3群に分けているそうです。


●第1群:生体がすべて分裂能力を持った再生系細胞だけからなる動物。
     生物を構成している細胞は、幹細胞によって次々に補われる。
     プラナリア、ヒドラetc.
●第2群:発生の初期には分裂性の細胞があるが、成体になると、生殖細胞
     を除いて、体細胞はすべて分裂能力を失った非分裂性の非再生系
     細胞からなる動物。
     C.エレガンスなどの線虫や昆虫etc.
●第3群:成体になっても、体細胞のなかに分裂能力を有する再生系細胞が
     あり、再生系細胞と非再生系細胞が同居している動物。
     固体発生の過程で、
     ex. [分裂性の再生細胞]   ⇒ [非分裂性の非再生細胞]
       神経芽細胞(神経幹細胞) →  神経細胞 
       筋芽細胞(筋幹細胞)    →  心筋細胞
     のように分化し、高度な機能を維持し続ける。
     ヒトを含めた多くの脊椎動物tec.
*これらの3群は、生物進化の系統発生の順になっている。
★出典:「人はどうして老いるのか」(田沼靖一著/ちくま新書)

併せて、以前の当ブログ記事を参照ください。
↓↓
参照:多細胞生物はなぜ登場したのか?~高度化の戦略(後編) [1]
    細胞分裂の分化史(なんで屋劇場資料より) [2]


一見ヒルのようにも見えるが、よく観察すると、2つの眼をもっており、なかなかキュートな顔立ちだ。実は、眼だけではなく、筋肉や消化管、脳までももつ、れっきとした動物だ。このプラナリアの何がすごいか。それはイモリやミミズを凌駕する高い再生能力だ。例えば、メスのような物で10個の断片に切る。すると死ぬどころか、全ての断片が一週間ほどで完全な個体へと再生し、10匹のプラナリアになるのだ(図1)。
【中略】プラナリアは、通常、ある一定の大きさまで育つと、胴体の中央にある咽頭の少し下でくびれを生じ、2つに切れてやがてそれぞれが個体となる。つまり無性生殖、言い換えればクローン増殖するのだ。さらに驚くべきことは、栄養条件や温度などの環境が悪化すると、自らの体の中に精子と卵子をつくり、受精して新たな遺伝子セットをもった子孫を残すのだ。つまり、無性生殖と有性生殖を使い分け、個体の数を効率的に増やすと同時に、遺伝的多様性も維持することのできる、生命力あふれる生物なのだ。

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図1 プラナリアをメスのような物で切断すると、
    それぞれの断片が一週間ほどで完全な個体に再生する。
出典:「人はプラナリアになれるのか」 [3]
*京都大学生物物理学教室・阿形清和教授の「インターカレーションモデル」を紹介する動画なども見れます。

 
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◆外圧適応戦略としての有性生殖
第1群に属するプラナリアは、平常時は胴体の中央からくびれを生じ、2つに切れてそれぞれが個体となる無性生殖(クローン増殖)をします。同時に10個に切り刻んでも、それぞれが固体として成立するほどの再生力があるというから、全身に散在し全細胞の10%以上に及ぶ全能性幹細胞の威力はすごいものがあります。
それでいて、栄養条件や温度などの環境が悪化すると、自らの体の中に精子と卵子をつくり、受精して新たな遺伝子セットをもった子孫を残す無性生殖と有性生殖を使い分けています。
ここでの注目点は、「外圧」と「適応様式」
・環境外圧が緩やかなら、効率の良い無性生殖を行い
・環境外圧が厳しくなると、効率を度外視しても、遺伝的な多様性のある
 有性生殖に切り替えている。
ということです。

線虫の発生様式 [7]
線虫は、25℃で餌(大腸菌)が豊富にある環境では受精卵から約2日半で成虫へと成長します(線虫の生活環)。一方、、高温、餌が無い、個体密度が高いなど、環境が悪化すると、L1幼虫期に発生パターンを切り替えて耐性幼虫(dauer larva) になります。耐性幼虫は体が細く、生殖能はありませんが、乾燥や高温などに耐性を示し、餌の無いところで60日以上生きることができます。再び、生存に適した環境になると、耐性幼虫は配偶子形成が可能な成虫へと成長します。線虫はこのように苛酷な環境でも生きながらえ、子孫を残せるような発生戦略を持っています。
胚発生期(embryonic stage) は、前半の「細胞増殖期」と後半の「形態形成期」に大別できます。細胞増殖期では目だった構造を作ることなく細胞分裂が続きます。形態形成期は消化管、筋肉、ニューロンなどの器官が形成されます。
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線虫のからだ
線虫の体は成虫の雌雄同体(hermaphrodite) で959個、雄(male) で1031個の体細胞でできています(詳細な写真 その1 その2)。非常に少ない細胞数ですが、咽頭(pharynx)、腸(intestine) などの消化器官、体を動かすのに必要な神経(neuron) や筋肉(muscle)、体の構造の維持に必要な下皮(hypodermis)、配偶子形成に必要な生殖組織(germ line)など、動物の基本的な構造を全て持っています。
(線虫の生活環) [8]

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          線虫Cエレガンスの生活環 図
線虫C.エレガンスには雌雄同体とオスとがいます。通常はほとんどが雌雄同体で約1000匹に1匹の割合でオスが生じます。雌雄同体はその生殖腺で精子と卵の両方を作ります。それらの間で受精が起こり、子宮内で初期卵割が開始します。発生途中で産み落とされた初期胚(”卵”)は孵化して小さな1令幼虫(L1)となり、さらに脱皮を繰り返しながらL2~L4, 成虫と成長します。オスは雌雄同体と接合し精子を送り込みます。オスの精子は雌雄同体がもともと持つ精子に優先して卵と受精し、雑種の子孫を生じます。

第2群に属する「線虫C.エレガンス」の場合は、胚発生期に分裂性の細胞が体細胞の形態形成まで進むので、体細胞における万能性を失うので無性生殖(クローン増殖)はしない(?)が、以下の機能が付加されているようです。
環境適応の戦略は、 
・雌雄同体の成体内で起こる有性生殖による新たな遺伝子セットに加え、
 約1/1000のオスと雌雄同体との雑種交配で、遺伝子シャッフル度を上げる。
・発生途中で産み落とされた初期胚(”卵”)は孵化して小さな耐性幼虫になり、
 乾燥や高温などに耐性を示し、餌の無いところで60日以上生きることができる。
ということです。
つづく     by びん

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