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細胞接着の重要性

我々多細胞生物(人類)は、約60兆もの細胞が集まり、各細胞それぞれが機能分化し、かつその分化した細胞それぞれの役割を統合する事によって、活動を行っている。
では、この60兆もの細胞が、まとまった一つの生命体を維持し、活動させる具体的な構造はどのような仕組みによって支えられているのだろうか?
単細胞から多細胞への進化の過程を遡る事で、その仕組みが少しづつ解明されている。
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■細胞認識と細胞接着
元々は一つの細胞(受精卵or単細胞)であったものが、分裂を繰り返しながら増えて行く。この仕組みは単細胞生物の段階で既に適応戦略として組み込まれていたが、多細胞生物以降、分裂ではなく分化(母細胞から異なる娘細胞を作り出す)の仕組みを獲得した。
この分化を生み出す仕組みの前提となるのが、細胞認識と細胞接着だ。
多くの細胞接着には、カドヘリンと呼ばれる接着分子(細胞膜を貫通する膜たんぱく質の一種)が機能する事が解っており、このカドヘリンが隣り合う細胞同士の特定を行い、同種の細胞(カドヘリン)同士であれば接着を行う、という振分けの仕組みを持っている。
cadherin2.jpg [3]
画像引用元リンク [4]
また、ここで同種の細胞を認識し、相互に接着する事で、各々の細胞には極性(位置情報)が発生する事になる。
実は、この繋がる事によって決まる極性というものが、後の機能分化へ進む過程において非常に深い関連性を持っていると考えられる。
細胞接着の様子については、下記サイトのムービーがとても解りやすいので是非ご覧下さい。
カドヘリン:その構造と機能 [5]
4本目のムービーでは、上皮細胞が形成された後、その一部がくぼみ始め、神経管を作り出して切り離す、という過程が紹介されている。
この様に、まずは分裂した細胞同士が結びつき合い、相互に位置情報やたんぱく質エネルギーの交換などを通じて、その位置に相応しい細胞組織を形成して行く。次に、その分化⇒組織化した細胞を制御する神経系統の細胞が、同じ位置の細胞の中からさらに分化して形成されて行くのだ。このようにして、各細胞間に張り巡らされた細胞間ネットワーク(シグナル伝達)の仕組みが無ければ、いくら細胞が寄り集まった所で、一個体としての適応力を高める事は不可能であっただろう。
まさに、『分化と統合』を実現する過程である。
例えば我々人類も、一人では持ち上げられないような重い石でも、2人あるいは4人集まる事によって各人に掛かる重量を分散し、力を合せて持ち上げる事が可能である。この時に重要なのが、同時に力を合わせる瞬間。いくら大勢集まった所で、各々がバラバラ な動きをしている限りは、そこに存在する力を一定の方向へ発揮する事は出来ず、いつまで経っても仕事が進まない。
多細胞生物の誕生期の地球環境は、超寒冷期という逆境期であったと考えられている。また、現在も見られるボルボックスや細胞性粘菌等に見られる群体化や多細胞化も、飢餓状態に適応する為の戦略である事が知られている。単体では対応しきれないような激しい外圧に対し、同類認識と共同性を発揮した時に誕生したのが、多細胞生物の始まりなのだ。
また、原核細胞⇒真核細胞への細胞内共生進化もまた、集まり、協働する事によって進化してきた事を教えてくれているように、我々生物にとって、同類認識 と共同性というものは、失ってはならない自然の摂理の一つなのであろう。

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