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ボルボックスのインバージョン(反転)と微小管

このブログで、今までボルボックスが何度か紹介されていますが、今日は、ボルボックスのインバージョン(反転)から、多細胞化を見てみましょう。

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画像引用「微小藻の世界 [1]

まず、ボルボックスってどんな生物?過去の記事等から2つ復習しておきます
まず生殖細胞が分化した [2]
ボルボックスの不思議 [3]
でボルボックスの特徴について整理すると、
池や川、沼、田んぼなどの淡水に見られる緑藻の一種。
栄養状態が良ければ、雄と雌はそれぞれ無性生殖を行い、どんどん増えていく。
栄養状態が悪くなり飢餓状態になると、有性生殖を行う
細胞が集まって球形の群体を形成する生きも。直径は1ミリにも満たないが、約数千個の体細胞が、一層になってゼラチン状の基質の表面に集まっている。その内に約16個の大きな生殖細胞を包み込んでいる。ボルボックスの体細胞は1種類だけ。
鞭毛(べんもう)を使って回転しながら泳ぐ。
5000万年前から現在までの間に、クラミドモナスという単細胞生物から細胞群体へと進化した。
今日は、このボルボックスの一種類の体細胞に注目します。
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ボルボックスは、生殖細胞が分裂して体細胞を作る時、体細胞は生殖細胞の内側に作ります。そして、体細胞の分裂が終わると、生殖細胞と体細胞は反転(インバージョン)して、体細胞が外側に生殖細胞が内側になります。その仕組みについて「西井一郎氏 ボルボックスで探る多細胞生物への進化 [7]」より図と共に引用紹介します。

「ボルボックスは、さまざまな場所からたくさんの細胞が集まってきて形づくられていると誤解されている方も多いかもしれません。しかしそうではなく、1個の生殖細胞から子どもが生まれます」
 生殖細胞が約2000個の細胞に分裂し終わった後、インバージョン(反転)という細胞シートの変形運動が起きる。「このときまで、親の身体とは反対に、生殖細胞は球体の外側、鞭毛は内側を向いています。それが球体の一方の極に開いた十字形の穴から、まるでミカンの皮をむくように表裏が反転していくのです。こうして生殖細胞は球体の内側に入り、鞭毛が外側を向くことで、泳ぐことができるようになります」

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「インバージョンが起きるとき、まず細胞の形が細長くなり、細胞同士のつなぎ目(原形質連絡)が真ん中から、細長くなった先端へ移ります(下図参照)。それが穴の周囲の細胞から順番に起きることで、ミカンの皮をむくように表裏が反転するのです。

キネシンという“運び屋”の役目をするモータータンパク質の遺伝子が、つなぎ目を先端へ運び、インバージョンが起きると考えられるようです。

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すごい、うまくひっくりかえりますね~
もう少し分かりやすく、同じく西井氏の研究より写真も紹介しておきます
生命史研究館 [8]より)。
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ここで細胞同士を繋いでいる「原形質連絡」、「キネシン」に注目です。このキネシンによって、原形質連絡が中央から端へ移動するんですね。でっひっくり返る!
でも、このキネシン、原形質連絡ってなんでしょう?

原形質連絡は、植物細胞間を細胞壁を貫通し接続している橋です。この橋を使って細部間は様々な情報伝達を行っています。
キネシンとは、もとは細胞内の微小管の上を動くモータータンパク質です。生物の細胞の中には、微小管という細長いチューブが放射状に張り巡らされています。細胞はこの微小管を線路のように使って、細胞が生きていくために必要ないろんな物質を必要な場所へと運んでいます「運び屋」。また、キネシンは、微小管線路を解体する「解体屋」の役割を果たすこともあります。
復習しておくと、微小管は、このブログの「なんでや劇場「有性生殖へのみちのり」レポート② 無性生殖の高度化(有糸分裂の仕組みとは) [9]」でも紹介されている有糸分裂の時に、染色体を両側に均等に引っ張る糸ですね。
ボルボックスのインバージョンの場合も、この微小管とその上で働いていたキネシンが、原形質連絡の移動でも働き、その位置を中央から端へと移動させて、反転が可能となっています。
進化は塗り重ねであり、多細胞化の段階でも、栄養状態が悪いという外圧の変化に対して、もとある細胞内の機能を、上手く使って、自らを変化させて進化しているんですね。
ボルボックスは、栄養状態が悪くなると有性生殖を行い、鞭毛を持つ体細胞を作り、生殖細胞と体細胞の位置を反転させ、光合成が可能な場所へ移動が可能となったのでしょう。

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