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オスメス(性)決定の仕組み

人間にとってオスメス(性別)の分化は絶対的なものですが、生物界を見ると必ずしも性別の分化は明確ではありません。高等動物では、精子をつくるのがオスで卵子をつくるのがメスですが、原始的な生物では一つの個体で精子も卵子も作っています。
人間の性別が、性染色体=X・Y染色体で決定されていることは有名ですが、他の生き物ではどの様になっているのでしょうか。
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この画像は「沖縄GID集いの広場 [1]様々な性 [2]より転載しました。
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例えば、腔腸動物であるホヤは雌雄同体で、一つの個体が精子も卵子も作っています。ですから、遺伝子レベルでのオスメス分化はありません。精巣を作る遺伝子も、卵巣を作る遺伝子も、どちらも全ての個体が持っていて、両方が働いています。
もう少し進化して軟体動物になると、雌雄異体の者が登場してきます。さらに進化した魚類になると、雌雄同体はごく少数となりますが、成長に応じて性転換する種類も多く、相変わらず雌雄の分化はあいまいです。性転換するということは、精巣卵巣を作る遺伝子は全ての個体が持っており、状況によってどちらかの遺伝子が発現するように制御していることになります。
しかし、魚類では遺伝子レベルで性別が決まる種が登場します。メダカでは性決定遺伝子であるDMY遺伝子も同定されています。しかし、魚類でほかに性が遺伝子で決定されている魚類の遺伝子を調べてもDMY遺伝子は見つかっておらず、魚類の中でも種類によって、性決定の遺伝子は異なっています。
さらに進化した、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類では自然環境で性転換するものは見当たらず、概ね遺伝子により性別が決定されていますが、両生類、爬虫類、鳥類ではホルモン投与などにより、比較的容易に後天的に性転換させることが可能です。また、爬虫類では遺伝子で性決定されるものもいますが、性遺伝子の型がオス型であっても、孵卵期の温度でメスになったりオスになったり変化するものが多くいます。
鳥類や爬虫類も性決定遺伝子は未発見で、さらに鳥類や爬虫類はメスの性染色体がヘテロタイプであるZW型、オスの性染色体がホモタイプであるZZ型であり、性染色体そのものが哺乳類とは大きく異なっています。これらの遺伝子は哺乳類のXY遺伝子とは相同性が無く、全く違う遺伝子で性決定が行われていると推測されています。
哺乳類ではY染色体上に性(精巣)決定遺伝子であるSRY遺伝子が同定されています。胎生期の10日目前後にSRY遺伝子が働くことで生殖腺のオスメス分化が決定し、その後は性転換は起こりません。
性決定の方法は様々ですが、これらの動物では、共通して、精巣の形成・維持にDMRT1遺伝子が重要な働きをしていることが示唆されていますし、また、卵巣の形成・維持にはエストロゲン/エストロゲン受容体系が不可欠であることが実験的にもはっきりと示されています。
従って、精巣分化のカスケードと卵巣分化のカスケードの少なくとも一部はこれらの動物間で共通であると考えるのが一般的です。そうすると、性決定遺伝子の主たる役割はこれらのカスケードを最上位でオン、オフすることにより生殖腺の性分化を制御している可能性が考えられます。
また、もっと原始的な段階から考えると、まずは生殖細胞と体細胞の分化が第一段階の分化であり、生殖細胞が卵子と精子に分化するのが第2段階の分化、卵子だけを作る個体と精子だけを作る個体に分化したのが第3段階の分化といえます。
雌雄同体の軟体動物では、もとは同じ細胞から精子と卵子をつくることが可能であり、性転換を行う魚類では卵巣と違う場所に精巣がつくられることから、体細胞が生殖細胞に変化していると考えられます。
遺伝子レベルでは、オスメスに関係なく全ての細胞の遺伝子に、生殖細胞、卵子、精子、卵巣、精巣をつくる情報が保存されており、それを制御する機構を徐々に発達させながら、オスメス分化を進めていったのでしょう。
生物の進化とは、新たな機能を獲得し遺伝情報が増えていくと同時に、増えた遺伝情報の中から細胞によっては使わない機能を発現させないように制御する機能も獲得していくことです。体細胞でも生物の高度化に伴い、神経、骨、筋肉、内臓、免疫系など様々な機能が発達します。これらの器官を作る情報は全ての細胞に含まれていますが、各器官の細胞は殆どの機能の発現を抑制することで、機能特化した細胞に姿を変え各器官を形成しています。
生殖機能も進化するに伴い、体内で受精する機能を獲得したり、卵を粘膜で覆ったり、殻を付けたり、子宮を作ったり、授乳機能を発達させたり、どんどん高度化しオスメスの差異が大きくなっています。生殖機能が複雑化高度化すると同時に、性の可変性を小さくする必要が高まり、性決定の仕組みを進化させてきたと考えられます。

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