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生殖細胞と体細胞の分化(粘菌の場合)

もともと、生物が単細胞から多細胞に進化していく過程で、細胞は専門分化し多様な細胞が発達します。その中でも一番最初に分化した細胞が、生殖細胞です。体細胞と生殖細胞が分化する仕組みはどうなっているのか、原始的な生物である粘菌で調べてみました。
まずは、粘菌の基礎知識。粘菌はアメーバー状の単細胞で細胞分裂を行っていますが、栄養状態が悪くなると単細胞同士が集まり、集合体をつくって移動し、さらに子実体と呼ばれる植物のような形態となり、胞子を作ります。これを生活環と呼んでいますが、単細胞から多細胞へと変化し、さらに多細胞が体細胞と生殖細胞(胞子)に分化するのです。
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この画像は粘菌惑星 [1]より転載しました。
もともと、同じような単細胞であった粘菌が集まって、どの様に生殖細胞と体細胞に分かれていくのかその仕組みはどうなっているのでしょうか。興味のある人は応援をお願いします。
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勉強させてもらったのは細胞性粘菌における分化パターンの調節と形態形成 [5]というサイトです。
まず、第一の変化が単細胞同士が集まることです。これは、外界の要因によっています。栄養状態が悪くなると細胞同士集まり始めるのです。
そして、細胞同士が集合することで、細胞が作り出すcAMPという物質の濃度が高まります。cAMP濃度が高まると、細胞の中で集合期に発現していた遺伝子が抑制され、形態形成期(胞子と柄へと分化させる)遺伝子が発現するのだそうです。外的な要因ではなく、細胞が集合した相互作用で、生殖細胞と体細胞への分化が促されるというのは意外でした。
ちなみに、cAMPはアデノシン一リン酸ともいう有機化合物で、RNA中に見られるヌクレオチドの一種です。細胞内でATPから生産され、細胞内シグナル伝達で重要な役割を果たしています。
cAMPにより最初につくられるのが、将来胞子に移行する予定胞子細胞のようです。そして、予定胞子細胞が作り出す、DIF-1という物質が将来柄に移行する、予定柄細胞を作り出します。そして予定柄細胞はDIF-1を破壊する物質を作り出し、予定柄細胞が一定割合以上に増えることを防ぐ役割も持っています。
この物質バランスによって、集まった粘菌の細胞数が多くても少なくても、胞子細胞・柄細胞に分化する細胞の比率はほぼ一定に保たれています。生殖細胞と体細胞の比率も、細胞が集団化したことで生まれる相互作用による物質バランスにより決められています。
そして、予定柄細胞は自食胞(自己貪食胞,autophagic vacuole)とよばれる構造を発達させます。自食胞は、細胞が飢餓状態に陥ったときなどに自分の細胞成分を分解する自食作用(autophagy)をおこなう小胞です。これが予定柄細胞で特に発達するのは、外界からのエネルギー源の補給が絶たれたなかで予定柄細胞が形態形成運動の原動力の大部分を担い、最終的には細胞質のほとんどを分解し尽くして柄細胞になることに対応しています。
一方、予定胞子細胞は自食胞を急速に減少させ、細胞内の高分子をできるだけ温存する方に変化します。また、予定胞子液胞を形成し、さまざまな多糖類や糖蛋白複合体が蓄えます。それらは予定胞子細胞から胞子への変化が起こる際に、細胞外に出され胞子外皮の構成成分となります。
胞子細胞は次世代の命をつなぐために養分を蓄える、柄細胞は胞子細胞が栄養を蓄えやすいように自らの細胞を栄養源にして移動や柄の形成を行う。すでにこの段階で、生殖存在と闘争存在といえるような機能分化が行われていることにも驚かされます。

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