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レジオネラ属菌は、二重(ふたえ)の膜に防護されている?!

レジオネラ症は、日本でも2000年頃から温泉施設や循環式24時間風呂などを感染源とするものとして、頻繁にニュースに取り上げられてきました。塩素耐性のないレジオネラ属菌なのに、ずっと猛威をふるっているのは、なんで? に関する答えが見えたので、その情報を抜粋してみます。(出典:*1 [1]

[レジオネラ症の発生報告数]
2002年~2004年の3年間で平均158(例/1年間)
2002年:295名が感染(疑いを含む)うち7名が死亡
      宮崎県の大型入浴施設を感染源とする集団感染事故
2005年:280例
2006年:303例(8/20現在)
患者報告数は年々増加傾向にある。
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写真:レジオネラニューモフィラの電顕像(出典:*1 [1]
 レジオネラ属菌は0.3~0.9×2~20μmの好気性グラム陰性桿菌(写真1)で、淡水や土壌中に広く生息しています。環境中では特に、循環式浴槽水、冷却塔水、加湿器、給湯水、噴水などの人工的な水環境から高率に検出されています
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 レジオネラ症は健康な成人が発症することはまれで、高齢者や乳幼児、基礎疾患を有する人など免疫機能が低下している人に発症がみられます。ヒトからヒトへの感染はありません。
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 レジオネラ属菌は浴槽水で通常使用する塩素濃度で死滅しますが、アメーバ内に寄生するレジオネラ属菌は外界から守られた状態にあるため、塩素などの薬剤は十分には効果を発揮することができません。さらに、宿主となるアメーバ自身は塩素などの消毒剤に強い耐性を持つため死滅しません。アメーバは浴槽環境中で、ぬめり(バイオフィルム)などに特に高率に存在しています。そのため、定期的な清掃、消毒によりバイオフィルムを除去し、レジオネラ属菌汚染の背景にある宿主となるアメーバを浴槽水中に定着させないことがレジオネラ属菌対策を行う上でとても重要となっています。(出典:*1 [1]

ということです。レジオネラ属菌が、なぜ塩素滅菌環境の温水循環系においても存在できるのか疑問に思っていましたが、少しずつ見えてきました。
後半に行く前に、よろしくお願いします
                  
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レジオネラ属菌は、二重(ふたえ)の膜に防護されている?!
まず、配管内面や濾過槽に「バイオフィルム(生物膜)」ができる。簡単にいえば、バイオフィルムとは微生物が排泄するスライムで囲まれた微生物の集合体、とのこと。そして、「バイオフィルムを伴った細菌は浮遊細菌よりも遊離塩素に対して150~3000倍、モノクロラミンに対して2~100倍抵抗性が高い(LeChevallier1988)(出典:*2 [5])」らしいのです。
バイオフィルムができると、水流や残留塩素などから防護されたその領域に細菌・微生物類が集まって、コロニーを形成する。レジオネラ属菌は、そのコロニーに移動し、さらにそのコロニー内のアメーバの細胞膜内に侵入して寄生するという。アメーバは、残留塩素などの消毒剤に強い耐性を持つため死滅しない。そのアメーバの細胞膜内に侵入したレジオネラ属菌は、二重(ふたえ)の膜に防護されていることになるわけです。
バイオフィルムとは「細菌共同体」?!
単細胞生物はバラバラに自由気ままに生きている訳ではなく、すべての細菌の99%以上はバイオフィルム社会に住んでいるらしい。

“異なる種がスライム・シティの中で親密に生活し、お互いに助け合って、隣人らしい交互作用を通じて食糧供給を利用し抗生物質に抵抗している。ある種が産生する毒性のある排泄物はその隣人ががつがつと食べてしまう。そして、公共のスライム・シティを建設するために生化学的資源をプールすることによって、数種の細菌は、それぞれ異なる酵素で武装して、単一の種だけでは消化できない食糧供給を消化する。”“バイオフイルムはあらゆるレベルでチャンネルのネットワークが浸透し、これを通じて水、細菌の排泄物、栄養素、酵素、代謝物および酸素が行き来する。ミクロゾーン間の化学物質とイオンの勾配によってバイオフイルムの周囲の物質を入れ替える力が生まれる。”(Coghlan 1996) (出典:*2 [5]

これは大きな気付きです。しかも、同種に限らず異種の細菌でも、互いに情報や物質のやり取りをしながら生きているというのですから、コロニーと云うに相応しい。これって、多細胞生物の原型をなしているのではないか、とさえ思えてきます。
浴槽などには、剥落した皮膚組織などが混入してくるので栄養素には事欠かないようです。バイオフィルムを通して必要なものが取り込まれ、さらに細菌類の細胞膜から取り込まれた物質を得て、また、必要とあらばコロニー内のバクテリアさえも栄養源とするレジオネラ属菌だからこそ、私たちにとって脅威となり続けているようです。
その根本的な部分で、「膜」の機能が作動しているというのが、今回の大いなる気付きでした。
◆参考サイト◆
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*1:アメーバに潜むレジオネラ属菌 [1]
http://www.iph.pref.osaka.jp/news/vol32/news32_2.html
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*2:バイオフィルム Biofilm [5]
http://www.edstrom.co.jp/resources/water_biofilm.htm
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*3:『バイオフィルム入門 -環境の世紀の新しい微生物像- [6]
(日本微生物生態学会バイオフィルム研究部会 編著,日科技連)
http://www.wound-treatment.jp/next/dokusho148.htm
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by びん

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