- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

脂質から細胞の機能メカニズムを解明する

細胞膜の秘密に迫る研究が理化学研究所で行われています。今日は、理研NEWS2003年4月号から「最先端研究の現場」の紹介です。 [1]
http://www.riken.jp/r-world/info/release/news/2003/apr/index.html
>私たちの体を作る物質で、水、タンパク質の次に多いのが脂質である。脂質には、エネルギー源となる脂肪や、細胞膜などの生体膜の主成分であるリン脂質が含まれる。このリン脂質をはじめ脂質は数千種類にも上るが、人工的に膜を再現するなら、たった1種類の脂質でも可能である。では生体膜にはなぜ数千種類もの脂質が必要なのか? 「生体膜ではさまざまな種類の脂質が集まって、それぞれドメイン(領域)を作り、細胞の機能に重要な役割を果たしていることが分かってきました。
>「細胞膜ができた時が生命が誕生した時だと言っても言い過ぎではないと思います」と小林チームリーダーは語る。・・・細胞膜で囲まれていて内側と外側が仕切られていることが、少なくとも生命にとって必要な条件であるといえる。では、なぜ細胞膜は内側と外側を仕切ることができるのか? 細胞膜の主成分はリン脂質である。リン脂質など膜を作る脂質分子には、水になじむ親水性の頭部と水を避ける疎水性の尾部があって、2つの脂質分子が疎水性の尾部で向き合い、親水性の頭部を細胞の内側と外側に向ける形で二重膜を作る。このように親水性の層の間に疎水性の層を挟み込んだ脂質二重膜構造により、細胞膜は内側と外側を仕切ることができるのだ。
>しかし脂質二重膜は、細胞に必要な物や情報を取り入れたり、不要なものを外に出したりすることができない。物の輸送や情報伝達は、脂質二重膜に埋め込まれたタンパク質がつかさどっている。
この内外の仕切り役としての脂質と、内外の渡し役としてのタンパク質という構造は、ここ数回、紹介されていますので、もう皆さんお分かりだと思います。しかし、脂質は単に固定的なものではなく、実は液晶のように半固体半液体状態を保っていて流動しており、その流動性がタンパク質による物質輸送を活性化させているということが判ってきたのです!
ブログランキング・人気ブログランキングへ [2]
にほんブログ村 科学ブログへ [3]


>「1972年、米国のS. J. Singer(シンガー)とG. L. Nicolson(ニコルソン)が“流動モザイクモデル”を提唱して細胞膜の理解に大きな進歩をもたらしました。それまで細胞膜は固体で、動きがない静的なものだろうと考えられていたのですが、ここで初めて細胞膜はダイナミックであるという概念が提示されたのです」
流動モザイクモデルは、脂質二重膜が固体(結晶)と液体の中間状態である液晶になっていて、そこに浮いているタンパク質が動き回ることができるという概念である(図2)。

zu2.gif
タンパク質だけでなく膜のベースをつくっている脂質も協同して膜の認識機能を担っているのですね。そしてその謎解きの鍵を握るのが、あの謎かけの怪物スフィンクスの名を冠した「スフィンゴ脂質」である。
>「スフィンゴ脂質は互いに結合しやすいという性質があります(図4)。さらにコレステロールとも物性の相性が良く、スフィンゴ脂質があるところにコレステロールが寄っていきます。コレステロールが“のり”の役目をして、脂質ラフトの形成を促進すると考えられます。ラフトとは“いかだ”のことです。性質の似たタンパク質が集まって、脂質のいかだに乗っているというイメージです」脂質ラフトは生成・移動・消滅をダイナミックに繰り返していて、物の輸送や情報伝達に重要な役割を果たしていると考えられている。
zu3.gif
>ある情報が来たときに、特定の脂質ラフトが大きくなるなど、劇的な変化が起きる。するとその情報伝達に関連するタンパク質が集まってきて、伝達効率が高まる。そのような脂質ラフトの機能も提唱されている。

>これまで細胞膜における物の輸送や情報伝達は、タンパク質が主役となって行われていると考えられてきた。「私はタンパク質を乗せている脂質ラフトの方がむしろ主役だと考えて研究を進めています」
尚、東京都臨床医学総合研究所の2006年4月の記事にはこのように書かれています。 [4]http://www.rinshoken.or.jp/BS/
>スフィンゴ糖脂質は細胞膜の構成成分の一つで、脂質部分が膜に埋め込まれ糖鎖部分が細胞外に露出したかたちで細胞表層に存在している。その構造的特徴から細胞の認識機構に関与するものと予想されてきて、近年スフィンゴ糖脂質は個体発生に必須であることがスフィンゴ糖脂質生合成酵素の遺伝子ノックアウト実験により証明された。しかし、スフィンゴ糖脂質の生体内における役割についてはまだ解明されておらず、ポストゲノム時代における重要な研究標的として残されている。
膜を構成する脂質から伸びた糖鎖が外部情報に対応して、同類をあつめそれによって脂質表面を埋め尽くす脂質ラフト(いかだ)が変動し、それに押されてタンパク質が集められ、内外の選択的透過が促進される。・・・最先端研究が教えてくれるのは、「同類を認識し同類同士が集まるという物質の特徴、いいかえれば同類を認識する機能が生命活動の基幹をなしているということであり、そしてそのような物質的基盤の上に異なる物質が相互に連携しあいながら外部情報を内部に伝え、そして動いている。」ということではないでしょうか。いやー細胞って知れば知るほど「すごい」ですね!
ブログランキング・人気ブログランキングへ [2]
にほんブログ村 科学ブログへ [3]

[5] [6] [7]