2007-07-12

脅威の「膜」機能

ないとうさんが「膜タンパクこそ最初の認識機能 膜タンパクの様々な働き」で細胞膜(膜タンパク)について詳しい投稿をしてくれていますが、今回は、細胞内外における「膜」の働きについて調べてみました。
その名もメンブレン・トラフィックです。
 このメンブレン・トラフィックは、膜融合型輸送とも呼ばれており、「膜の分裂や融合により、細胞膜とオルガネラ※の間、あるいはオルガネラ同士の間で分子(たんぱく質や脂質)が移動する過程」の事を言います。たんぱく質といえば、最近の投稿でもあるように私達の身体には無くてはならないもの。なんと!細胞膜間の移動だけでなく細胞間、細胞内の移動にも膜が関わっていたのです!恐るべし、膜機能
※オルガネラについてはこちらを参照 :真核細胞の細胞内小器官の機能と構造 メモhttp://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=155364    
 私達の身体の中の細胞が正常に働くためには,新たに合成された様々なたんぱく質が前述の細胞内小器官に正しく運ばれなければなりません。それが妨げられると・・・・・種々の遺伝病の原因となってしまいます。 😥 また、ウイルス、細菌などの細胞内寄生体には,このメンブレン・トラフィックを利用して侵入するものや免疫機構に必要なたんぱく質の輸送を妨げることにより免疫系を逃れるものもいるそうです。
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            メンブレントラフィックの種類 メンブレン・トラフィック入門より
要するに、私達の身体は、このメンブレン・トラフィックは欠かせないというわけです。
さて、このメンブレン・トラフィックの仕組はいかに!?
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メンブレン・トラフィックには様々な輸送経路がありますが大別すると
・分泌経路
・生合成経路
・オートファジー経路
・エンドサイトーシス経路
の4経路あります。分泌経路と生合成経路は「小胞輸送」と呼ばれています。 それでは、これら4系統を詳しく見ていきたいと思います。
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            メンブレントラフィックの経路 理研ニュース2000年3月号より転載
Ⅰ小胞輸送(分泌経路、生合成経路)
 小胞輸送は、メンブレントラフィックの中でも最もよく知られた輸送方法で、小胞体からゴルジ体を経て
細胞膜に至る分泌経路とゴルジ体からエンドソームへと至る生合成経路で行われています。
 まずはたんぱく質の経路ですが、
①リボソームでたんぱく質の合成
②小胞体の膜内に侵入
③輸送小胞の形成
④ゴルジ体へ輸送→細胞膜やエンドソームへ
という経路を辿ります。
 小胞体では、「たんぱく質のパッケージ」が行われます。リボソームで生成された部品となるタンパク
質や、細胞の外に分泌されるタンパク質を合成する所です。それを輸送小胞に包んで送り出すのです。
 また、ゴルジ体はいくつもの輸送経路の交差点になっています。要するに小胞輸送のターミナル駅みたいなものですね。そして、ゴルジ体から細胞膜やエンドソームへ送られるのです。
 エンドソームとは、細胞外の分子の取り込みや、細胞表面の分子の(ソーティング)並べ替えに関わる小胞です。エンドソームに取り込まれた一部の分子は再利用され、小胞輸送によって細胞膜へと輸送されます。
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                  小胞輸送の仕組   メンブレントラフィックより転載
 そして、その時膜は、
①送り手のオルガネラの膜の一部が瘤状に突出
②根本で括り取られる
③輸送小胞の形成+輸送小胞に入る内腔成分と膜成分の選別
④特定の受け手オルガネラを選び結合
⑤膜融合による内腔成分と膜成分の輸送
このような変化をしてたんぱく質輸送を行っています。
Ⅱオートファジー経路
 オートファジー=Autophagyのautoは「自己」、phagyはphage等と同類で「食べる」の意でで細胞が自己成分を分解する機能のことです。「分解」というと合成よりも重要でないと考えがちですが、生命は、合成と分解のバランスによって成立しているとの事。この分解を積極的に行うのがオートファジーというわけですね。
 オートファジーは、細胞質中のタンパク質等をリソソームに運ぶメンブレントラフィックで、それも小胞輸送とは異なる極めてユニークな方式のものです。
 それでは、その仕組を見ていきましょう。
①細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な膜区画が出現
②湾曲しながら伸長
③細胞質やミトコンドリア、ペルキシソーム等のオルガネラを包み込む
④最後に隔離膜の末端同士が融合し直径約1μmの閉じた2重膜構造が完成!!(オートファゴソーム)
⑤その外膜にリソソームが融合しオートリソソームに変身
⑥流入した加水分解酵素が内膜と包み込んだ内容物を消化
※リソソームとは、生体膜につつまれた構造体で細胞内消化の場です。内部に加水分解酵素を持ち、エンドサイトーシス(Ⅲで説明)やオートファジーによって膜内に取り込まれた生体高分子はここで加水分解されるのです。分解された物体のうち有用なものは、細胞質に吸収され、不用物は細胞外に廃棄されるか、残余小体として細胞内に留まるようです。。
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                 オートファジーの仕組み メンブレントラフィック入門より転載
 
 これらの過程は、数十分で進行します。オートファジーでは、細胞内のある空間がごっそりリソソーム酵素で分解されるためバルク(要するに大雑把な)分解系と呼ばれます。
Ⅲエンドサイトーシス経路
 
 エンドサイトーシスは、細胞が細胞外の物質を取り込む過程の1つで、このエンドサイトーシスにより細
胞外からの物質などを絶え間なく取り込んでいます。この取り込む量にご注目。なんと!!1時間で60%相当量の細胞膜がその3%程度しか表面積をもたないエンドソームへと次々流れ込んでいるらしいのです。つまり、このエンドサイトーシスは、細胞外の物質を取込仕組みとしてかかせない機能なのです。
 それでは、例によって仕組みを見てみましょう。
①たんぱく質のような大きな細胞外物質(リガンド)が細胞膜上の受容体(レセプター)に結合
②クラスリン(たんぱく質)に覆われた穴は深くなり細胞質の中に陥入
③被覆小胞の生成し細胞膜から離脱
④クラスリン(たんぱく質)を脱離させ、初期エンドソームに融合
⑤エンドソームが後期エンドソームに成熟
⑥リソソームとの結合やゴルジ体からの小胞と合体し取り込まれたリガンドの消化
※受容体は多くの場合細胞膜表面のクラスリンタンパク質(エンドソーム外側を形作る骨格となるタンパク質)に関連づけられています。つまり「タグ」みたいなものですね。クラスリンは細胞膜表面を覆い窪みを形作っています。
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        エンドサイトーシスの仕組み 北海道大学遺伝子病制御研究所より転載
つまり、
細胞膜が細胞内に「陥入」して遊離することで必要なたんぱく質を取り入れる機能という事ですね。
 実は、このエンドサイトーシス、まさに今研究中らしいのです。再先端なのです!
 このように見てみると
  たんぱく質の取入れから輸送、はたまた分解に至るまでほぼ全ての過程で「膜」が大活躍しているのです!
 しかも単細胞生物の時点でこの機能はすでに獲得されているのです!すごい!
私達が日々生きていられるのも膜のおかげですね。
参考:メンブレントラフィック:http://leib.rcai.riken.jp/membranetraffic/membranetraffic.html
    大阪大学微生物病研究所 環境応答部門 細胞制御分野メンブレントラフィック入門:
    http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/cellreg/jp/kenkyu.html

List    投稿者 arinco | 2007-07-12 | Posted in 未分類 | 4 Comments » 

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コメント4件

 みけ | 2007.08.15 11:07

いつも楽しみに読ませていただいています。
初めて投稿します。
なんというグッドタイミングでしょうか。先ほど、会社の盆休みの読書で、アンドリュー・パーカー著「眼の誕生」を読み終えたばかりでした。とても面白かったです。お勧めです。
この古生代・カンブリア紀関係の書物は、私の読んだ順に、スティーブン・ジェイ・グールド著「ワンダフル・ライフ」→サイモン・コンウェイ・モリス著「カンブリア紀の怪物たち」→それとこれ。どれも当たり外れなく楽しめます。
さて、先カンブリアとカンブリアの境で、視覚が誕生した理由ですが。著書では、恒星理論や銀河での地球の位置から、太陽の光度が増加したか、大気・海水の組成変化により透明度が向上したのではないかと、世界中の学者がその理由を探っているようです。
ところで、カンブリア紀の硬組織の怪物たちですが、どれも体長が小さいですよね。上野の国立博物館、地球館・地下2階で、バージェス頁岩・澄江化石の実物が見れます。マルレラ・ハルキゲニア・オパビニアなんかも1~2cm程度で、こんなに小さいんだとびっくりしました。

 みけ | 2007.08.15 11:14

すいません。コメント訂正します。
×上野の国立博物館
○上野の国立科学博物館
です。カハクは面白いですよ。出張帰りにいつも立ち寄っています。もちろんリーピーターズ・パス持ってます!!

 s.tanaka | 2007.08.16 18:05

みけさん、はじめまして。お盆の読書テーマとシンクロできてなによりです。
>太陽の光度が増加したか、大気・海水の組成変化により透明度が向上
なるほどー。「世界が明るくなった」から、視覚が有力な外界認識機能として登場した、という仮説ですね。かなり説得力高い気がします。神経細胞の進化はこのブログでも取り上げたいテーマなので、これからもいろいろ教えてください。
>カンブリア紀の硬組織の怪物たちですが、どれも体長が小さいですよね。
そうそう。一番ポピュラーなアノマロカリスが異常にデカイので意外な感じがするんですよね。魚も哺乳類もそうですが、多細胞生物がダイナミックに進化する時は、ごく小型のものからスタートする、というのが案外普遍的なスタイルなのかも知れません。
科博!もう少し早くコメント頂いてたら、このお盆に行ってたかも(笑)
関西在住なもので、今度まとまった時間が取れたら行って見ます。

 深海と生物 | 2009.04.22 2:25

巨大な頭をもつ奇妙なエビのような生き物

5億500万年前の地層で発見されたフルディア・ビクトリアという古生物は、「カンブリア爆発」で知られるカンブリア紀の生き物です。 フルディア・ビクトリアの化…

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