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進化の仕組み~環境変化と遺伝的変異をつなぐ仕組みとは

BIOLOGICAL JOURNAL では人類へと至る進化史をシリーズでお送りしていますが、今日は、そもそも進化≒生物多様性はどのようにして生み出されているのか、という進化の仕組みに関する最新研究動向についての情報をお届けします。
以前の記事にもあったように進化の一翼をDNAの遺伝的組替え(遺伝的変異)が担っていることは確かなのですが、では、環境変化と遺伝的変異とをつなぐ仕組みはどうなっているのでしょうか?
理化学研究所で遺伝システム制御研究室の准主任研究員を務める太田邦史さんは、この疑問に答えてくれています。以下ニュースソースは日本が遺伝子研究において世界に誇る理化学研究所がホームページ上で公開している理研NEWS2006年7月号 [1]


>DNAは通常、ヒストンというタンパク質に巻き付いて数珠状になり、「クロマチン構造」をつくっている(図1)。これではDNAを切る酵素が近づけず、DNAを切ったりつないだりする組換えは始まらない。太田准主任研究員らは、ヒストンのアセチル化レベルが上がるとDNAの一部がむき出しになってDNAの組換えが始まること、また、この反応は生物が環境ストレスを感じることで促進されることを明らかにした。「生物はピンチになると潜在能力を発揮するんです。例えば、植物は冬になって日照や栄養が少なくなりストレスを感じると、DNA組換えを行い、花を咲かせて子孫を残す準備を始めます。生命多様化の歴史でも、例えば約5億4000万年前に生物種数の増加が一気に進んだ“カンブリア爆発”と呼ばれる出来事が想定されていますが、何らかの環境変動が生物にストレスを与え、DNA組換えが促進されて多様化が進んだのかもしれません」
つまり環境ストレスがかかると、DNAの糸を折りたたんでいる構造(クロマチン構造)が再編される。DNAの糸を巻きつけている糸巻き装置ヒストンが糸をほどいてDNAの糸を切れやすくなる。そうすることで変異を生み出していくという仕組みになっているのだ。
では、環境ストレスをヒストンに伝達する仕組みはどうなっているのか?これについては理化学研究所の別のレポートが参考 [2]になる。
>このクロマチン再編成が、環境ストレス応答や炎症発生などに関わるシグナル伝達経路SAPK経路によって制御されていることを明らかにしています。
では、シグナル伝達経路SAPK経路とは? [3]
>紫外線照射や乾燥、高浸透圧、化学物質、活性酸素、高温などの様々な細胞ストレスが細胞に加わると、一群のタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)によるリン酸化反応の連鎖反応が起き、最終的にストレス耐性や細胞死(アポトーシス)に関わる遺伝子群の発現に結びつく。この際重要な役割を演じるのが、ストレス応答キナーゼシグナル伝達経路(Stress-activated protein kinase pathway)であるが、この経路においてどのような機構で特定遺伝子の発現が誘導されるかについては、依然として謎が多い。この経路およびそれを構成するキナーゼは種を越えて良く保存されており、ヒトなどの高等生物では、ストレス応答以外にも炎症発生やアポトーシスにも関わっており、創薬ターゲットとしても昨今注目を浴びている。
「キナーゼと呼ばれるたんぱく質がリン酸化反応を連鎖的に起こすことで、伝達経路がつくられる」ということなんですね。
現代ではストレスというとすぐ‘悪いもの’という価値判断が働き、ストレスのない生活が理想であるかのように語られますが、ストレス=外圧こそが、生命を活性化させ進化を引き起こす動因なのですよね。中立的進化だとか、なにごとも偶然に過ぎないといったような人間的価値観に振り回されることなく、外圧があって内圧が形成されるという、生命原理からみれば当たり前の事実に立脚して、ありのままに考えていけば、進化の仕組みももっとはっきりとしていくのではないでしょうか?理化学研究所のがんばりに期待したいと思います。

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